『現代文解釈の基礎 新訂版』
遠藤嘉基・渡辺実
ちくま学芸文庫
\1500+
2021.10.
元来1963年発行の、高校生のための国語の参考書であり、問題集である。問題の解説を中心にして、解釈するとはどういうことか、これでもか、というほどに解説してくれる。新訂版は1991年発行である。ずいぶんと古くさい時代のものである、と思われるかもしれないが、名著であるから、復刊されたのである。しかも、それをかつてこれで学んだかもしれない、大人向けに、文庫で世に問うた。470頁近くの厚さを誇るのは、文庫であるが故かもしれないが、画面構成は悪くない。上段を本文とし、下段には解説を、わんさか盛っている。
副題に「着眼と考え方」と載せてあるが、これもよく練られていると思う。どちらも必要なのだ。目印というか、まず何に目を向けるか、気づくか、というのは、実は文章読解のときに、私たちが知らず識らずのうちに身につけて実行していることである。だが、若い人たちは、これを意識してやらねばならない。それを覚える、よい機会となるだろう。
全体は、思い切って「文学的な文章」と「論理的な文章」とに分けた。
前者は、解釈の基本から探りを入れ、登場人物について深める段階と、構成・表現について考える段階とを設けた。さらに、作者の思いを掴むところまで進めて落ち着くのだが、詩についての考え方も付せられている。
後者も、やはり基本から入るが、具体的には論の重点について考えることから、論の構成について着目する読み方を紹介してゆく。さらに、論者について、その思想に迫るための実践練習を重ねて、そのまま終了する。著者たちによる「あとがき」はなく、文庫版への解説が別に添えられているだけである。
但し、著者たちは、まず「この本を使う人に」と題して、本書の使い方を記している。「現代文解釈の基礎的な力を養おうとする人のための、ガイドブック」であるのだそうだ。それは「高等学校の初学年が利用するのに最も適」するのだという。いやはや、解説の精密さもさることながら、出題はかなり高度である。私も苦労したし、間違いも多かった。だが、これを高校一年生のときにもし学んだとしたら、確かにそれはすごいことだと思う。また、確かに学べると思う。豊かに解説がついているからだ。
とはいえ、解説を読んだから分かる、というのも早計であろう。著者たちは、人生経験を重ねた上で、そのような経験を綴った筆者と重なる部分を多くもっている。だが、読者が高校生だとすると、その経験がないし、知識も狭い。ただ、これから経験する様々なことを、学んだ理論の体験であると気づいて、噛みしめてゆくならば、学びつつ、成長できるのではないかと思う。言葉でだけ分かったふうでいたことが、身を以て分かる、という日々を経験してゆくのである。
この最初の頁のところには、ほかにも実によいことが書いてある。普通、参考書の前書きのようなところは、さして目を通さなくてもどうということのないことが書いてあるかのように考えられているかもしれないが、これは違う。例えば2つめには、受験のためにのみ勉強する人がいるが、教養のために必要で大切なのだ、と断言している。その他は、本書の構成などが記されているが、「最後に、この本を使う人にぜひとも守ってほしいこと」を述べている。要するに例題をまず解け、それも「考え方」という解説は全く読む前に一度解け、というのである。それをしないと、「この本の価値は半減する」としている。
さあ、これに耐えられるだろうか。私は意固地なところがあるので、それに従ってみた。とにかく全問、考えた。そのため、相当な時間を費やした。こればかり読んでいくわけにはゆかないので、1日1題のペースで続けた。すると15分くらいは必要だった。長い日々を通して、1日1題程度で読み進めた。読み終えた今、よかったと思うのは、これだけの時間をかけた、ということである。それは日数のことでもある。熟すのに時間が必要だとすれば、つらつらと素早く読んでしまうよりは、1日ひとつを熟成させてゆく営みが、必要だったと思えた。
これは実際に、高校の教科書にあった文章を題材としている。ということは、1960年代である。現在も高校の教科書に残っているものは、少ないかもしれない。今風の文章はそこにない、と言えるかもしれない。だが、読み方そのものが変わってしまうことはない、という前提で向き合ったほうがいい。確かに、感覚的でポップな特色のある作家が好きな、いまの若者からすれば、鯱張った、いかめしい大人すぎる文章であるかもしれない。西洋と東洋を対比させたり、人生の大問題について深く思索したりする様子は、おじいちゃん世代以前の古典めいたものであるように目に映るかもしれない。それを思うと、半世紀以上前の高校生の、文章読解のレベルというものは、いまと比べられないほどに、高度であったふうに想像できる。果たしていまの高校生が、ここに出された問題どころか、そもそもここにある文章そのものについて、歩い程度でもいいから、読むことができるのだろうか、と心配になる。ごく一部の優れた才能の持ち主がいることは分かっているが、いまの若い世代では、能力の差が大きいのである。
それでも、私は卒業した中三生に、本書を薦めてみた。高校一年生でこれを適切に読めば、人生が変わるよ、と。本当にそうだ、と私は思っている。

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