本

『学力を伸ばす家庭のルール』

ホンとの本

『学力を伸ばす家庭のルール』
汐見稔幸
小学館
\1365
2006.4

 少しばかり子どもに触れたことのある私のような者や、あるいは子どもはこうなのだという強い信念をもったような人が、時折、このような本を著す。時にそれは、自分の理論に陶酔したようなところがあり、信じてその通りにするととんでもないことになったりする。
 つまるところ、「子どもというものはこういうものだ」というふうに、一般化してしまうところに、その元凶があるような気がしてならない。こうすれば成績が上がる、というふうに断言するのもおかしい。そんな方法があれば、皆が成績が上がるはずであるが、それはネズミ講に等しい誘い文句にほかならない。
 そんないぶかしげな眼差しで開いたこの本であったが、予想を覆された。これは良い本である。東京大学の教授であり、校長まで務めた人である。しかも、塾で教えた経験もあるという。威張っているように思われがちな人だが、決してそんなことはない。
 まず、「学力」についての正当な説明から入る。そもそも自己陶酔型の著者なら、学力とは既知のこととして扱い始めるであろう。しかし、「学力」とは何のことを言っているか分からない、ということからこの本は始まるのである。
 副題は「賢い子どもの親が習慣にしていること」とある。親が子どもに対して出しゃばりすぎないこと、子どもはむしろ親に反抗すべきであること、などが貫かれている。子どもは、親に従順のみで成長することはできないのである。
 お膝元の東大の学生の姿から、偏見のない事実が明らかにされていくところも説得力があるし、学校の現状や問題点もよくご存知であること、それを隠さず明らかにすることが、信頼性を増す。ただし、東大がそれほどよいものではない、という下りは、立場上分かるのだが、東大がもつネームバリューと、なんといっても人脈の豊かさや有利さがあるという点について、触れていなかったように見受けられるのは、不親切かもしれないと感じた。
 自己実現という流行言葉の重大欠陥を明確にして、社会性の視野を前提にしなければならないことを強調するなど、広い視点から解き明かすところも、理に適っている。
 子ども自身が読んでも理解は難しいかもしれないが、高校生くらいなら読めようか。親はもちろんのこと、小中学校の教師や学校関係者にも、大いに読まれて欲しい本と思われる。危機管理とは何かについても述べてあったこともあるゆえ、とくに、内部に甘く、官僚の理論で運営していくことしか知らない、某中学校の指導者は、こういう本から学んで戴きたいと思う。尤も、読んだところで、自分の問題として省みる能力がないからこそ尊大になってしまった者であれば、自分は関係ないというふうにしか読めず、自分が変わることはないだろうけれども。
 聖書にしても、そういう性質があるものなのかもしれない。




Takapan
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