本

『学校の事件』

ホンとの本

『学校の事件』
倉阪鬼一郎
幻冬社
\1,500
2003.7

 このコーナーで取り上げる雰囲気の本ではないかもしれないが、なかなか楽しめたのでご紹介したい。
 世にミステリー好きな方は多い。現実を逃避できるのがよいともいう。私はその世界にのめりこむには、ほかにすることが多いので、遠慮している。でも偶に読んで面白いものに出会ったら、それはそれで楽しい。
 この本にしても、図書館で、表紙の絵に惹かれたので借りただけだ。そのアナクロ的な絵と、学校を舞台にしたミステリー書き下ろしというので、ちょっと読んでみるかという気持ちになった。
 田舎の吹上という地で起こった事件の幾つかが、連作状に並んでいる。一学期・夏休み・二学期・冬休み・三学期・春休みと、それぞれに事件が起こる。陰惨な事件もあれば、どこか微笑ましいような殺人(形容矛盾はご容赦願いたい)もあるといえる。別々の話として読んでも魅力があるし、すべてをつなげればそこに一本の糸が通じていることが分かる。  そして、犯行が最初にあって捜査するというよりも、犯行に至るまでがドラマチックに描いてあるのが面白い。犯罪心理のようなものがねちっこく描かれている。きっと誰もが心の中に抱いたことがある殺意を、詳細に綴ったようなものだ。その幾つかに思い当たった私は、深層心理的にも恐ろしい悪魔的な心を隠し持っているのかもしれない。いや、たぶんそうだ。
 架空の小さな吹上市(埼玉県吹上市・鹿児島県吹上町のことではない)を遅う狂気の嵐。人間の中にある闇を客観視するとき、案外自分の中の闇に気づかされるものなのかもしれない。
 最初の話が比較的長い。そこでじっくり読者を楽しませておいて、次に陰惨な殺戮に入る。いずれも小さな町で行われたものだとは思えないが、やけにリアリティもある。そしてもちろん、オチらしいものもあるのだが、それをここで明らかにするわけにはゆかない。どうぞお楽しみあれ。
 ミステリー・ホラーを得意とする作家のようだ。鈴木光司が有名になったが、こういうのはけっこうトラウマになる。いまだにテレビから貞子が出てきそうな気がするときもあるし、黄色いレインコートに赤い幼稚園バッグの少女が暗がりにいるような恐怖に駆られるときもある。




Takapan
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