本

『不良のための読書術』

ホンとの本

『不良のための読書術』
永江朗
ちくま文庫
\620+
2000.5.

 真面目で不真面目。子ども向けの本のキャッチフレーズのようであるが、読書についてこれほどふざけた本はなく、これほど真摯な本もない。
 表紙からして不真面目そうではあるが、これは本を愛し、出版事情から書店のからくりまですべて知る著者による、読書全般に関する情報開示である。つまり読者は、本を読むという側にしか立っていないし、たとえば本を安く買えないかとばかり考えている。私もそうである。だが、書店にしても出版社にしても、本を売らなければ成り立たないのであるから、その立場から見たらどういうふうに書籍流通は見えるかということ、この視点を確実に与えてくれる本となっている、と言いたいのである。
 そのために、マジメなよいこの見方ではなく、斜に構えた形で読書や本について考えようというのである。まずは、本を律儀に全部読むなというところから入る。つまらない本に出会っても、せっかく買ったのだから読まなければもったいない、とばかりになんとか最後まで読んでみて、やっぱり面白くないと本を閉じる、それは何の得にもならないのだ。それを読んだだけの時間を失ったのである。
 読書というものについて、気取った立場ではない。卑猥な小説やポルノ雑誌ですら、ここでは立派な本のひとつである。どれもが文化であり、どれもが読書である。本は本に違いないのだ。そして、本を「買う」ということに大きな意味をもって描いている。これもまた、書店を救うための道なのであろう。著者はいい人だ。
 本を愛するあまり、書籍についての様々な情報を教えてくれる。原稿料の仕組み、書店のマージン、だからどうしてこういうしくみになっているのか、といったからくりまで私たちに見せてくる。本を愛するというのはこういうことなのだろうという気がしてくる。
 そこで、本屋とのつきあいもレクチャーするし、本屋の立場もことごとく教えてくれる。
 しかし、図書館というのもまた、読書の重要な基点である。図書館は文化の砦であるが、図書館から借りる人が多くなると、書店は儲からなくなるではないか、と素人は見ることだろう。著者はもちろんそんなふうには考えていない。図書館を利用する人こそが、書店で本を買う人なのである、ということを力説する。私は全くその通りだと考えている。そもそも本を買わない人は図書館にも近づかない。そして、図書館で読んだからこそ、購買へと動くのである。
 その点、また古本屋という存在も気になる。昔の古本屋から、いまのスタイリッシュな書店が現れ始めた頃の執筆である。その辺りの事情もよく教えてくれている。
 とはいえ、これは私が読んだときより20年ほど前の事情である。当然、事情は古い。まだインターネットで本を取り寄せるということが、ほんの一部の人にしか利用されていなかったような時期である。古本屋を巡り足で探すといった経験は、もちろん私も懐かしむものだが、それを基盤として書かれていても、いまには全く通用しないだろう。しかしネット通販主体になっていったとしても、何かしら変わらないものはあるはずで、本書の叙述がすべて無意味になったとは思えない。本書には、どうしても時代についていっていなところもあるように見えるが、なかなか先を読んでいると思えるところも多い。読んで損はないと私は思うが、どうだろう。
 最後に、読書日記などくそくらえ、というふうに書いてある。私は日記ではないが、このように書評めいたものを以て、読んだことを次に生かす道を考えている。本を並べては処分することの繰り返しではあっても、その本の内容は何かに生かせることを考えている。だから、本書の著者の読書愛、本への愛というものはよく伝わってくるように感じる。阪神淡路大震災から間もない時期の発行でもあるから、地震と本という関係にも触れている。あらゆる場面で、本というものについての愛情をふりまいているのだと言える。小さな文庫ではあるが、情熱溢れる叫びが詰まった本である。




Takapan
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