本

『深読み! 日本写真の超名作100』

ホンとの本

『深読み! 日本写真の超名作100』
飯沢耕太郎
パイ インターナショナル
\2615
2012.1.

 写真芸術については知識がないので、洒落たことは言えない。
 ただ、ここに集められた百の写真の迫力については、感じる心をもっている自分をうれしく思った。それほどに、素人でさえも唸らせる何かをこれらの写真はもっている。
 しかし、本当に写真だけであったら、それを味わうことは素人にはできまい。この本は、写真を右の頁に置き、左側にはその背景やその写真家について、長すぎず短すぎないように記されている。この解説が実に利いている。明治天皇のエピソードや、竹久夢二が絵を描くにあたり写真を撮っていたというその写真など、興味深いものも多かった。
 そのカメラマンの無数の写真のうち、一枚を以て代表させるというのは、選ぶほうに苦悩があろう。しかし、読者はとりあえず一枚を求める。選者の感覚で編集された本であるから、果たしてこの本が、写真家たちの本であるのか、編集者の本であるのか、微妙なところであることだろう。が、とにかく、近代日本を語るような一冊となっている。
 個人の内面をも描く。社会性をも伝える。また、コラージュも含め、まさに芸術のための写真とも思しきものを見る。いろいろな角度で楽しめる本なのだが、これは私の好みとしての話として、やはり古い時代の写真の味が心に近づいてくるように感じる。そこにも十分モダンさがある。明治時代にして、すでに江戸時代のような人々の結びつきが消えたという嘆きをこぼす民俗学者もいたほどである。明治は十分に近代なのである。今に通じるものが多々あるのも当然である。ただ、写真という新たな手法により、何を表現しようかというところに情熱を傾け、あるいは実験しているような趣が随所に感じられて、人間味を感じるのである。それは、マンガやアニメにおいても言えることだろう。品質はよくなったかもしれないが、新しいものはだんだんと冒険心が薄れ、似たようなものに落ち着いていく傾向があると見られる場合が多い。だんだんと、新しいアイディアが出にくくなっているのも事実なのだろう。
 そんな詮索はともかくとして、ただ眺めているだけで、唸ってしまう、そんな一冊である。「深読み」などとタイトルにあるが、決してひねくれているわけではない。むしろただ「深い」と称していればよいのかもしれないとさえ思う。




Takapan
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