本

『「奇跡」のトレーニング』

ホンとの本

『「奇跡」のトレーニング』
小山裕史
講談社
\1,500
2004.1

 初動負荷理論が世界を変える――大仰な副題が、何だろうと思わせる。
 イチロー選手を始め、陸上の伊東浩司、福岡ダイエーからオリックスに変わった村松、その他有名選手が名を連ねる、トレーニングセンターの秘密を明らかにした本である。
 びっくりする。なんと常識と違うことか。腕をだらりと垂らして、自然と前に足が出るように重心をずらすのが、走るための理想的なスタートだなんて。また、野球のボールの握りについても、上手か下手かなどが問題などではなく、ボールの基本的な握り方がまず重要なのだという説明にも、目からウロコが落ちるような気がした。
 イチローの大リーグでの成功の秘密は、このトレーニングにあったのだ。
 常識と大きく食い違いながら、実際にやってみるとこれが実に心地いい。汗水垂らして辛い特訓を続け、疲れたり筋肉を痛めたりした挙げ句、ついには役に立たず体が蝕まれていく――従来の、力に任せるトレーニングは、そのようなロスばかりを生み出すとして、著者はそこから背を向ける。その姿勢は、本の随所に現れている。
 悲しいかな、やはり文章で説明されていると、それだけから理解しようとしても限界がある。たぶん、このトレーニングを「ワールドウィング」やそれと提携する施設で実際に行ったことのある人なら、書いてあることが、あのことだこのことだと手に取るように分かるのであろう。
 とはいえ、直球の投げ方なり、バッティングの方法なり、いくつかの点で実践しようと思えばできるものがあって、早速私も、息子たちに教えたくなった。いや、まずは私が直にやってみて、効果のほどを確かめてからでなければならないだろうか。
 やたら筋肉を鍛えるのがよいのではなく、理に適った無理のない練習をすれば、思いも寄らぬ力が現れてくる、というのが基本的な考えのようだ。
 膝を叩いたのは、どうして力を不必要にこめた徒競走のスタート姿勢がいまだに続いているのか、という辺りであった。今も当たり前のことのように、力のこもったスタート姿勢が指導され続けていくのか、という内容である。著者曰く、それは何かの姿勢に似ていないか――兵隊が武器を手に突撃するときに教えたことを、そのままスタートの模範として踏襲しているのだ、と。
 このトレーニングの知恵、勉強にも活かせるような気がしてならない。また、比喩的になるかもしれないけれど、私たちの人生の知恵としても、役立てられるように感じられて仕方がない。




Takapan
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