本

『夫婦の関係を見て子は育つ』

ホンとの本

『夫婦の関係を見て子は育つ』
信田さよ子
梧桐書院
\1365
2004.8

 アダルト・チルドレンという言葉が知られるようになってきた。私ももちろん、流行る前に知っていたという訳ではなかった。最初は、大人のような子どもかしらん、などと感じていた。アルコール依存症の親をもつ子どもであるという意味を知ったのは、その後であった。
 阪神大震災のときからであろうか、トラウマという言葉も飛び交うようになった。おそらく、心理学の用語が一般市民権を得ていく様子を、心理学専門の方々は、どこか不安な面持ちで見つめていたのではないか。言葉が知られて意識されていくのはよいが、それが誤解されたり気分だけで理解されていくようなことになりはしないか、と。
 臨床心理士である著者が、6年ほど前に上梓した本に加筆してできた本である。数年前に必要と思われたことが、今もなお必要であることの証拠でもある。主に母親へのカウンセリングとして、どんなことができるかを実践しているような、著者である。良妻賢母でなくてよいから、もっと自己中心とも見える、自分なりの感じ方や捉え方を表に出していくようにしよう、というのである。
 いわゆる「できちゃった婚」で若くして結婚した夫婦の下に、いわゆる「虐待」が多い、と言い切ってしまっているところは、偏見を呼ぶようなことにならないだろうかという気がしないでもないが、子どもたちの命を考える上では重要な視点であるのだろう。
 ともかく、さすがカウンセリングなどで実践を重ねた著者である。母親たちの避難場所を用意するかのように見つめて綴っていくその筆は、たしかに立派である。
 著者はある部分で、「癒し」という言葉の怪しさを指摘している。自動詞として「癒えていく」という働きを中心にしていた従来の使われ方と異なり、何かを癒すというふうに、他動詞的になっていくのも問題だ、という。
 日本社会が、いかに他人と合わせていくことを強要し、正義とは絶対的なものではなくて、仲間における利益のように捉えられるという説明も、十分心得ておきたいものである。
 親が子どもにどう接するか。どういうポリシー、立場で臨んでいくか。それは多分に、簡単な公式というものなど、ないものである。
 心理学というものは、面白いけれど、どこか胡散臭さを感じていた方もいらっしゃるかもしれない。そして、それが公式的にずばっと示されるのも、多分に私たちはよしとしないのではないだろうか。
 夫婦の問題を解決していくことによって、子どもたちへもよい影響を与えうることを示す。その指摘は、決して傍観者的なゆとりを与えてはくれない。心にグサリと入ってくることもある。この本の主題を飾る一つの重要な概念として「共依存」というものがある。これの説明は、実にリアルで、それでいて私たちが知らない、あるいはもしかすると認めたくないかのような内容を含んでいる。その意味で、ずっしりと重いものがある。




Takapan
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