本

『美しい日本のふるさと 九州沖縄編』

ホンとの本

『美しい日本のふるさと 九州沖縄編』
清水安雄撮影
産業編集センター
\2100
2008.10

 緑の豊かな風に包まれるような写真というものがある。ほっとする。緑色が人を落ち着かせるなどという、科学的な分析もいらない。そこにあるのは、純粋に色だけで心理を問おうとする営みではないから。
 日本中を練り歩いて、田舎の風景を撮っているその写真。人がまったく写っていなくても、なんと表情深く、何かを語ってくれることか。そう、この本の写真には、人がいない。いや、ごく偶に登場するのであるが、人が主役にはなりきれない。主役は、家であったり、茶畑であったり、細い坂道であったり、小さな漁船であったりする。
 こういうのを「鄙びた」と表現すればよいのだろうか。いや、単にそういうものでもない。全く派手ではない、地味な図像である。そして、その寂れた風景が、なぜか私たちをほっとさせてくれる。妙に、落ち着くのだ。
 これは私が九州人だから、この九州沖縄編にそう感じたというだけのことなのだろうか。知っている土地がちらほら紹介されるから、よけいにそう思えたのだろうか。
 文章は、撮影者ではなく、二人の名が、「原稿」という蘭に小さく収められている。編集者のような方なのだろうか。このコラム的な文章が、実にまた味がある。旅に出たくなるような、心くすぐる書き方をしてくれている。それでいて、わざとらしさもない。その土地の歴史や背景、そして人々の表情を、さりげなくしかも必要十分に伝えてくれる。
 ていねいに作られた本である。もちろん、写真も美しい。
 私たちは、これを「ふるさと」と呼ぶ。呼ばせていただく。それは古い里でもあるし、そこを離れてしまった者のもつ、うしろめたさのようなものも引きずって響く言葉でもある。あるいは、そこに再び戻るのが定められているような、懐の寛い言葉でもある。
 やっぱり、ほっとする。あらゆる理屈を超えて、人を包む力のある本である。




Takapan
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