本

『ふるさと子供グラフティ【新装版】』

ホンとの本

『ふるさと子供グラフティ【新装版】』
原賀隆一
クリエイト・ノア
\2100
2009.2

 かつて自費出版という形で出したものが、この時代に新装丁で発売された。グラフィックデザインなどを手がける著者が、子ども時代の思い出を絵や文にして作っていたものである。
 文よりも図版のほうが多分多いだろう。だが、的確な説明がどの絵にも施されていて、絵と文とが互いを補い合い、半世紀前の子どもたちの姿を生き生きと伝えてくれることとなった。
 私よりも古い世代に属する著者である。だが、私もこうした遊びの幾多を経験している。若干テレビの影響が私には普通に入っている点が違うかもしれないが、さほど田舎の腕白などとは言えなかった私にしても、自然の中で自然を相手にあるいは自然に囲まれつつ、友だちとやってきたこと、自分で発見したことというのは、この本の紹介するところと多く重なっている。
 遊びの紹介というふうにも受け止められる。事実、遊び方が事細かに記録してある。これは、多くのメンバーが話し合って集めたというのでなく、たんに著者が自分の子どものときにしていたことを思い出して集めていったのが、この本なのである。これだけ集められると、よくぞこんなに遊んだ、と天晴れ褒めたいほどだ。
 工作するものは、どのように工作するのか、たぶん自分自身のしてきたことを思い起こすという作業でのみ掲載しているものと思われるのだが、それにしても、実に具体的であり、これを身ながら、手近なものを集めてすぐにでもやり始めることができるかと思う。
 たしかに、これほどの遊びを全部こなすことができるほど、当時の子どもたちには時間があった。自由にできる時間があったのだし、その時間を自分たちの自由に利用できたのである。
 今、この本を使って、子どもたちにいろいろな遊びを教えよう、と、大人たちは思うかもしれない。自分は良心的であると自負している大人たちほど、そのようにして、これを遊び伝承のために用いようとするであろう。だが、それは多分、根本的に間違っている。子どもたちは自らこの本を見出し、自らこの本にあることを真似したり、実践したりするであろう。そうでなくて、子どもたちを大人たちが囲って、さあ遊びを教えましょうなんて場を作ってしまうと、子どもたちがせっかく自らやってきた遊び、あるいは無茶とも言ってよいようなこれらの遊びが、死んだものになってしまうであろう。子どもたちには、そのエネルギーは、ちゃんとあるのである。
 だから、この本は、大人たちのノスタルジックな思いを満たすためだけに用いられるというのが、この本の著者の、最も願う希望であり、夢なのではないかと思う。
 一定の経験がある者にとっては、当時の感触がこの手に甦ってきそうであった。著者自身、楽しくて楽しくて仕方がないから、この本ができた、と言っている。これだけ遊んできたから、楽しいのだ。これをぽんと許した奥様もまた、大したものだ。
 ただ一つ、これを本気で子どもたちに開かれた本とするのだったら、本文に総ルビといくべきであった。内容は、幼稚園の子にも楽しめるものである。漢字ばかりの説明ではないほうが、子どもたちに開かれていくだろうと思われた。あるいは、大人の思い出だけを喜ぶ姿勢で、本当にそれでよいというのであれば、また考えは異なることになるだろう。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります