本

『よくわかる家族心理学』

ホンとの本

『よくわかる家族心理学』
柏木惠子編著
ミネルヴァ書房
\2730
2010.2.

 よくわかる、というのは決して嘘ではないが、流行りの「図解」という感覚からすると、非常に学術的で、とっつきにくい形態になっている。女性を中心とした多くの教授メンバーが、項目毎に分担して記事を書き、それを効果的に並べてある。ひとつひとつの項目は2頁が基本で、時折長いものもあるが、数値データやグラフ、簡単な図解に注釈あり、と私にとっては見易いものとなっている。ただ、一般的に親しみを感じにくいのではないか、ということである。
 しかし、一旦この世界に入ってしまうと、なかなか取り憑かれてしまうような面白さを有している。
 問いかけは、まず「家族とは何だろうか?」に始まり、「恋愛から結婚へ」「結婚生活と夫婦関係」「子育て」「親と子の関係」と人生の動きに沿って流れて行き、「家族の臨床/病理」という問題点を挙げつつ最後に「家族のゆくえ」という未来のためへの問いでまとめられる。なかなかいい構成だ。
 そして、これはそうした過程を経験してきた私からすると、そう思うわけなのだが、これが実に心をグサリと刺してくる。「配偶者がいることの幸福は夫婦で同じか」など、男としての立場からごく通常のことだと考えていることが、特別な場合などではなく、目の前の配偶者の眼差しからすれば全く別の考えになっているということが明らかにされると、できれば読み飛ばしたいと思うほどである。いや、本当に多くの項目で、避けて通りたいと思うようなことが多々書かれている。
 元来の家族というものを振り返ることも、ないわけではない。しかし、それは漠然と私たちのイメージの中にある、郷愁めいたものであるかもしれない。他方、現代置かれている家族とこれからそれがどういうふうに動いていくのかどうかということについては、過去のあり方にしがみつくならば戸惑うばかりのものとなるかもしれない。つまりは、今の若者の考え方というやつである。これさえも、私たちが形成してきた家族という中で発生してきたものである。若者が分からないのではなく、時代の動きを、見ないふりをしていたから、いつの間にか分からなくなるのかもしれない。また、分かればよいというものではない。若者が勝手に変わっていったのではないのだ。それは、私たちが作用させてつくってしまったものなのだ、と考える必要があるだろう。
 とにかく、自分の姿を鏡で見せられたくないと強く思うならば、お勧めできる本ではない。ここには、まさに自分たち夫婦、いや夫婦の一人としての自分の姿がはっきり描かれている。それを突きつけられることも大切だとお考えの方には、ぜひ、とお勧めしたい本である。たしかに、「よくわかる」のである。自分の姿が、見せつけられるのだ。覚悟の上、ぜひお目通し戴きたい。
 なお、このシリーズは多々ある。好みの分野を見出して覗いてみると、その研究の最新の様子が手軽に理解できるのではないかと楽しみである。




Takapan
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