本

『はじめての編集』

ホンとの本

『はじめての編集』
菅付雅信
アルテスパブリッシング
\1800+
2019.7.

 2011年に出されたものの「新装版」なのだという。表紙からしてデザインに凝っている。「編集」そのものを内容として扱う本の編集が読者の目に晒されることになる。内容は至ってノーマルで、文章と、その指摘する雑誌などの面を小さく並べたグラフィックが時折あるというだけのものである。それだけに、文章として味わうならば実に広く、深いものに触れることができるように思われる。
 最初は地味に、編集なるものの歴史を振り返る。古代の壁画から入るのであるが、ここに聖書というコンテンツに触れてもらったのはうれしい。しかし、本書は編集史を教えるためのものではないから、直ちに現代の状況を説く。まさに今、私たちはどのような編集環境に置かれているのだろうか。
 編集する側の仕事を見せてもらえるというのは、読者にとり珍しいことであり、まさに本誌はそのためにあるといえる。あるいは、編集を生業とする方々が学び知るというところだろうか。いや、私はむしろ、編集されたメディアを受け取る者が、創造する側の思いを受け止めるために、ぜひ手にとって戴きたいと考えている。
 その意味では、企画製作という裏方の作業の頁も多く、関心をもてばふむふむと楽しめるが、あまりそちらに興味がなければ退屈に思う場合もあるかもしれない。しかし、過ピーあたりの話からは、私たちの生活に知る様々な誘いかけの言葉の生まれる所以やその是非について説かれるので、恐らく多くの人が身を乗り出して聞くことになるのではないかと思われる。
 そしてその言葉の問題から、イメージへとくると、さらに多くの人が共感できる解説を受け取ることができるのではないかと思う。カタカナ言葉が多くはなるが、それほど業界用語に染まっているわけでもなく、そこそこの知識で賄えると感じる。
 そして最後にデザインそのものについて告げる、核心部分が現れる。なにかしら「きまりをつくること」であるという大原則を掲げ、様々なデザインの実例がたっぷりと50頁以上にわたって示される。やはりここが味わいどころではないかと思う。ただ、そこにノウハウを求めるとすれば、目的が違うような気がする。そうしたデザインのノウハウの本は、大判のものがいくらでも世に溢れている。本書は、制作側の心構えやコンセプトを説いたものであり、たっぷり文章で味わい知るものでなければならない事柄である。また、一定のデザイン史とその現状を楽しむためのものでもある。
 また、注意すべきは、本書はやはり雑誌やポスターなどの分野であるということだ。ウェブデザインはまた別のコンセプトを必要とする。むしろウェブデザインという分野はまだ始まったばかりであり、発展途上でもある。どこへ行くのか、何を求めて動いていくのか、それはまだ定まってはいない。それに対して、雑誌の表紙やポスターなどは、ある程度型が定まっている。とにかく目に留めてもらわなければ、文章も読まれない、という姿勢で、どうすることが目に留まることなのか、著者は体験から余すところなく披露してくれる。
 こう考えると、こうして私が文章でメッセージを送ることですら、実のところ誰の目にも留まっていないに等しい、ということが突きつけられるわけだが、あいにく私はビジネスとしてやっていないのだから、まずはそれで破綻するということはない。それでも、確かに読まれることがなければ役立つとも言えず、ひとつのジレンマは感じている。媚びるのがよいとは思えない性だが、読まれるということには意味があることは承知している。それを感じさせる本でもあった。
 最後に本書は、「美しい」とは何か、という哲学的な問いを投げかけている。そんなものは一言で言えるわけがないのだが、著者はやはりデザインの極意として、「きまりがうること」をという捉え方を呈示している。その「きまり」とは何か、それが問題だ。これが、デザイナー一人ひとりによって異なることなのかもしれないし、もしかすると、「きまりがないこと」が「きまり」である、などという詭弁めいたものをも構えているのかもしれないので、まずは本書は極意はそこにある、というくらいで、後は個々人が楽しんで戴くことにしたいと思う。
 そしてどんな分野でも心しておきたいこととして、著者の何気ないフレーズが気に入ったので紹介しておく。「ベーシックなところに一度立ち返っても、そこからさらに面白くしていく馬力がクリエイターには必要だと思います。……伝えるだけでは伝わっていない……「届いている」のかもしれないのですが、それは「気になっている」「注目されている」「共感を持っている」「刺激されている」こととは次元が違うのです。……編集で大事なのは、伝えることよりも触発することだと思っています。そして触発するためにはいいイメージが必要なのです。伝えることから触発することへは、大きな跳躍があります。そのイメージの跳躍力をいかにつけるかが、クリエイターにとって大事なのです。」(p158)




Takapan
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