本

『絵をかこう! 1 よく見てかこう!』

ホンとの本

『絵をかこう! 1 よく見てかこう!』
たかやまふゆこ著・三嶋眞人(新しい絵の会)協力
汐文社
\2415
2013.11.

 学校図書用の本と言っていいだろう。「1」とあるからには、他にもあるのであて、「2」が「色をつかおう!」、「3」が「いろいろなものをかこう!」となっている。とりあえず今回「1」を開いてみた。これは「デザイン・スケッチのコツ」というふれこみである。
 作文のことを思う。「自由に書きましょう」は、戦後教育の中で盛んに勧められた方法であるが、これほど書きづらいものはない。「なんでも好きなものを頼みなさい」とレストランで親が子どもに言う言葉ほど信用ならないのと同様である。なんで言ったほうの気持ちを汲みとらないんだ、と言われかねない。
 絵も、自由にかけばいいんだよ、などと言われても、手が動かない子にとってはどうしようもない。それは、絵が描けないのではなくて、絵を描いた後に何を言われるか、どんな事態が待っているか、その人間関係のようなものが頭の中を占めてしまい、硬直してしまうということがままあるのである。
 だから、楽しく描こう。しかし、楽しく描けるための方法を提供しよう。この本は、そうした励ましに満ちており、勇気を与えてくれる。つまり、とりかかりの方法というものを伝授するのである。
 まず、画材の紹介から入る。これがまたいい。紙なんてチラシでもカレンダーでもなんでもいいんだ、ときている。ここで構えないゆとりを感じる。線の入ったノートでもいいんだ、とくると、ずっと気が楽になるだろう。鉛筆や消しゴムも、何でもよいときている。こうして、苦手な子の肩の力を抜いてくれる。
 そして具体的な書き方の第一の教授内容は、構図。トリミングという、ちょっと知っていると実に勇気の出てくる、しかしなかなか誰も気がつかないような事柄である。絵のうまい子は、自然にこれをやっているのだが、そうでない場合に意識させると実に効果的な第一歩なのだ。これは私にもよく理解できる。ただ、そのためにまず指でというのも実はけっこう高等な技であり、紙をやぶいて使ったり、カメラのモニターを利用したりするというアイディアは、現代的でもあるし手軽でもある。こうした気づき方は、さすが指導者だと思う。
 光と影との関係を知るようにさせ、遠近法も難しい言葉を使わずに感じさせる。顔についての「シミュラクラ現象」も、そんな用語を使わずに楽しい写真で提供すると、こんなふうに気軽に描けるし題材を選べるんだ、と楽しくなってくる。
 教え方がつねに具体的で、途中の様子も示してくれ、分かりやすい。人目を気にしてひとつ先に動けない子どもたちが、一歩踏み出す勇気を与えられたらいい、と私も願いたい。自己を表現できるということは、すばらしい喜びなのだから、また、心の問題も、そうしたことをきっかけとして、よい方向に進んでいくということが、しばしばあるのである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります