本

『やさしいドイツ語の教科書』

ホンとの本

『やさしいドイツ語の教科書』
志田裕朗
国際語学社
\1500+
2011.4.

 息子が大学に入学し、第二の外国語としてドイツ語をとることになったので、図書館からよさそうな本を借りて私もドイツ語を見直してみたというところである。  ただこれが活用で、こういう意味です、というだけのドイツ語入門は味気ない。本書はそのようなものではない。まずドイツ文化をたんまりと提示してくれる。これがいい。
 ドイツが冷戦構造の中で分断され、そして統一した特別な国であることから始まり、その国の言葉を学ぶということの意義を赤ゴシックで伝え。その国の歴史や文化を通してその国民を理解することだ、という。この極めて当然の、しかしなかなか誰も言ってくれない大切な学ぶ意義からまず伝えるという姿勢に、私は共感する。  こうしてドイツの地理と歴史から紹介を始め、ドイツ語がどのくらいどこで使われているかという、本書の核心に触れる。しかしそこで、ゲルマン民族に言及し、ゴート文字の銀文字聖書といった次元からの紹介は、うれしいものだ。古高ドイツ語・中高ドイツ語・新高ドイツ語といったところも掲げ、世界史の教科書のような記述が続いていくのにも驚かされる。
 学生にとっては、英語との関連を語ってくれるのがありがたい。私もそうだった。すると、英語でなぜこういうのか、といった点にも目が開かれることがある。ここに文法事項もさりげなく説明されているのだが、初心者は分からないから、後で説明があることを期待しよう。
 こうして文法、と思いきや、今度はドイツ人の性格の話になり、秩序・徹底性・倹約・客好きなこと・几帳面さというタイトルで語られてくると、これだけで一冊の価値がある文化論のようである。
 まだ続く。ドイツ文学を、地理的な分け方で滔々と語る。地図は巻末にあるので参照すると、歴史と共に地理的にドイツ文学を理解することになる。これは斬新であった。私も目からウロコが落ちる思いがした。
 そしてようやくここから、ドイツ語の学習に入る。入ったら、もう文化や歴史に逸れることはない。ひたすらドイツ語のあらましを伝えることに専念してくるのだが、その説明のコンパクトさにはまた驚いた。文字から接続法まで、80頁余りで走り抜けるのである。しかも要点は全く逃していない。ここから学ぶということは楽ではないかもしれないが、案外、要点を眺めていくというのは、全体を見渡すようで、効果的な語学理解につながるのかもしれないという気もしてきた。ところどころ赤いアンダーラインや、先程もあった赤のゴシック体があるなど、重要点も逃すことがないし、些末な説明がないというだけで、たとえば履修の後に手元に置いていてすぐに開いて調べたいという時には、もってこいではないだろうか。
 最後には、そのまま旅行先でも役立つような挨拶や会話表現も並べられており、どこまで欲張ればよいのだと呆れるほど、見事である。最後は、標識にあるドイツ語まで所狭しと並べられ、結ばれる。単語の索引があるのも、この規模の本としては配慮満点である。
 これほど圧縮した中に知識が網羅され、しかもたいへん見やすい構造となっているのは、幾度もいうが驚きである。文学者はたくさん掲載されているが、哲学者までは流石に無理だったか。音楽家や神学者、医学者などまで手を広げることは望めないだろうが、そうした話をいつまでも聞いていたい気もした。いやいや、これはドイツ語の教科書なのであ。勝手なことを言ってはいけない。
 まあ少し、ドイツ語を思い出してみようかしら。




Takapan
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