本

『絵本とは何か』

ホンとの本

『絵本とは何か』
松居直
日本エディタースクール出版部
\2200+
1973.1.

 クリスチャンの著者は、福音館書店で、こどものための雑誌や本を世に送り出し続けた。本書は、その絵本に対する核心的な部分が多く含まれている文章の花園である。中には、生い立ちや、この仕事を始めるきっかけの裏話のようなものもあり、興味深い。絵本への熱意があったというより、どこか成り行きで仕事に就き、実践しながら必要に応じて学んでいったようなところも暴露してある。
 特に、かつての絵本の扱いや時代情況をよく描いてくれているところは、客観的に見ても貴重であろう。つまり、日本における「絵本史」を形作っているとも言えるのだ。そのような研究や定説がこれまでなかったのだということも、著者は言っているから、ますます大切である。後半のほうで、そのような少し堅い内容の述懐もある。いろいろな文章が混じっているわけだが、それだけの多様性を載せて許されるだけの価値を、十分有しているのではないかと私は思う。
 この本そのものを私が知ったのは、加藤常昭氏の本からであった。説教一本のこの方の説教に関する叙述の中で、「見る」という働きについて、松居直氏の本から教えられところが多かった、と言われていたのである。その本は本書とは違うが、本書も優れたものだということで、紹介されていたために、入手してみたという具合である。
 著者の絵本についての考えは、他の本からもおおよそ知っていたし、ディズニーの流行を危惧するあたりも、特に驚くことはなかったが、1973年発行という時代性が、もっと顕著に出てくるかと思いきや、かなり今の時代にも当てはまるものであることを改めて素晴らしいと思った。もしかするといまのことを描いているのではないかと思われるくらい、子どもの想像力や大人の対処について、ずばずばと切り込んでくるのである。この時代は、子どもとテレビというものが問題視されていた。いや、それほど世間は問題になどしていなかっただろう。それでも著者は、そこを懸念していた。それがいまや、ネット時代である。テレビよりなお深刻になっているものと思われる。しかし本質的な部分で、子どもとテレビについて記されていることが、いまなお考えねばならないこととして浮かび上がってくるのである。
 絵本については、私がかつて自分の子に読み聞かせてきたことが、この著者の言葉で、間違っていなかったことを知り、うれしく思ったことがある。そのため、言われることが悉く、私の考えてきたことや、実践してきたことに重なる思いさえして、感動した覚えがある。とてもとても、絵本と共に生涯を送ってきた方と同じだなどと言うことはできない立場ではあるが、子どもの心と絵本の力、またそれを妨げる大人の思惑といったことについては、賛成の手を挙げたいところである。今は、その幼い時に絵本によって満たされなかったアダルトが、成長してから、絵本に郷愁めいたものを懐いたり、子ども目線に近いところでファンタジーやアニメを喜んでいたりするような世の中である。しかし、幼いころにこそ出会う想像力と親の温かさを知覚全体で感じる絵本の時空がつくる営みは、その時にこそかけがえのない出来事としてあったはず、またあるべきものであったというのも本当だと思う。著者は、そこを見ている。子どもをどう育むか、それは、何も我が子だけの問題ではない。この国の将来を左右する基盤となるであろうことを、私は確信する。これは決して、大げさなことではない。
 また、絵本を読みたくなってきた。読み聞かせたくなってきた。




Takapan
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