本

『えほん 障害者権利条約』

ホンとの本

『えほん 障害者権利条約』
ふじいかつのり
里圭・絵
汐文社
\1500+
2015.5.

「この絵本は、1人でも多くの人に、障害者権利条約のすばらしさを知ってもらいたくて作りました。という一文からの「はじめに」でこの本は始まる。ふりがなが振られているので、小学生でも読むことはできる。ただ、内容的には、高学年のほうが適切であるかもしれない。
 今の学校では、障害者との交流やその生活についての体験がどこかで伴っており、子どもたちも、昔のようによそよそしいものとしては考えていないことだろう。なにせ、触れたことのないものについては、人は不安を抱くし、気持ち悪がったり、偏見を膨らませていったりもする。しかし、実際触れてみると、案外そうでないという意識をもつように変わる可能性が出て来る。子どもたちが、昔ならば遠ざけられていた人々やその立場と、子どものうちに触れあっているということは、歓迎すべきことであると思う。
 しかし、大人が偏見をもって対処しているのを聞くうちに、「やはり」とか「そうだったのか」とかいう思いに支配されるようになると、元の木阿弥になってしまう。
 その意味で、いつも私が言うように、「えほん」というタイトルや、ふりがながあることに遠慮せず、大人がこの本を読むべきだ、と考える。余計な背景や配慮を加え、本質を見えにくくしたような高度な研究書よりは、まっすぐに大切なことが伝えられてくる絵本というものは、実のところストレートに心に飛び込んでくるというよいところがあるのである。
 小さな子どもには、本編だけでよい。字の読める人や大人に、読んでもらうのもいい。だが、小学校高学年以上、とくに大人は、「もっと知りたい人へ」という巻末の解説をも見たほうがいい。短い解説でしかないのだが、より具体的に事柄が挙げてある。つまりは、その内容はどうか、どの国がどうしたとか、国連が何を決めたかとか、簡潔に要点が告げられている。その内容については、次のステップで、別の本に進めばよいのだ。
 そこには項目ばかりがあるから、具体的にどういうことなのか、可能ならばどういう文献を開けばよいのか、などの情報が巻末にさらにあれば、より大人のための色が濃くなるのだろうが、本書はやはりそこは「えほん」に留まり、余計にお世話はしていない。むしろ、共鳴した大人が、この項目のひとつひとつを、検索でもして、見ていくことが望ましい。それでよいのだろう。
 実際の障害者権利条約の条項タイトルだけは紹介されている。言葉自体は難しいので、これを小学校低学年の子だけで理解するというのは至難の業であろう。中学校程度の公民分野の知識が欲しい。最後には、2014年にようやく日本が批准したこの条約へ至るまでの半世紀余りの年表がある。案外、こうまで簡潔に提示される年表というのも少ないかもしれない。これが、見通すために実に有難いのだ。細かなことは、いずれまた調べればよいのであって、どのくらいの時間をかけて、ようやくこの条約が生まれ、適用されるに至ったのか、人間の歩みの遅さと、関係者の苦労の長さを思い知ることが大切なのである。
 表紙にもある。「わたしたちぬきに、わたしたちのことを決めないで」という言葉が、重く響く。この当たり前のことが、当たり前になることを、願わないではいられない。そして、日々の自分の言動が、まさにその当たり前でありたいと思っている。




Takapan
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