本

『絵本の森へ』

ホンとの本

『絵本の森へ』
松居直
日本エディタースクール出版部
\1680
1995.5

 福音館書店を育てた、クリスチャン編集者。というより、なかなかの作家であるとして紹介してもよいだろう。
 本格的な絵本論というのもあるが、これはいろいろな良い絵本を紹介してくれたもの。24冊を、丁寧に伝えてくれる。その合間に、大切な絵本について基本的な考えもちらほら見せてくれている。
 それらの紹介が終わってから巻末に載せてある、「絵本を読んでやってください」と「あとがき」がまたいい。ストイックにそれぞれの作品の紹介を続けてきたと思ったら、やっぱり筆者はここで爆発するように計画がなされていた。短いメッセージであるが、心のこもった、説得力のあるお願いなのである。どんなに子どもたちが絵本を楽しみにしているか、読んでもらうことが至上の喜びであることを、痛感してほしいという親への願い。そして子どもたちを愛するだけでは足りず、愛を感じさせなければならない、というボスコの言葉を最後に引用して、愛があれば希望もある、として、絵本がそれを生み出すことを告げた上で、本の内容を閉じている。
 私も絵本の専門家ではないので、知らない絵本もたくさん紹介されてあったが、『100万回生きたねこ』については、その絵本をよく知っているだけに、どきりとさせられた。絵本を少しでも知った人は誰もがこの絵本のタイトルに肯くだろうと思われる。しかし、これをこんなふうに紹介できる筆者の才覚には改めて驚く。元の絵本も感動ものだが、この本の紹介はさらにまた感動する。
 その絵本の何頁かを、この本の各頁上部に写真として掲げる。絵本を紹介しようというのだから、このように実物を少しでも辿るような配慮が必要なのだろうと思う。
 ほかにも、切れ味鋭い書評が多い。だがまた、タイトルのように、絵本の森がここにあるわけで、一つ一つ潜って前進していくのが、一読者として頼もしい。
 その意味では、冒頭の「もりのなか」がやはり思い起こされる。男の子を連れ戻そうと助けに来たお父さんもまた、見えないものを見ている人だったのだ。
 森とは、先行きがはっきり分からないものである。だが、人生の中でも必ず迷い入ることがあるというものである。絵本が森の中を貫く一本道であることは、この本を読んでおいてそれに鈍くて何も感じない、などという大人が、少しでも減りますように。




Takapan
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