本

『絵本翻訳教室へようこそ』

ホンとの本

『絵本翻訳教室へようこそ』
灰島かり
研究社
\1890
2005.5

 絵本の翻訳教室というのがカルチャーセンターにあるとして、そこではどんなことが行われているか、その実況中継のような本である。
 実に細かい。ある一冊の絵本の英語を、実在の人物に重なるような数人の生徒を登場されてそれぞれに訳させ、それをもとに翻訳の注意点を語っていく、というものである。本当に細部まで行き届いた説明がなされており、時に翻訳の極意といったものが、さりげなく語られていたりするように見受けられる。
 私はやけにこれを丁寧に読んだ。つまり、私自身、課題の頁の英文を訳しながら、それを批評してもらうつもりで、読み進んだのである。
 すると、ちょっと感動することがあった。
 そもそも、私は英語についてはよく分からない人間の一人であって、まして文学的作品となると、甚だ不安である。ただ、絵本については、子どもの視点に立つという原則があると思うのと、最近よく開いているので、自分ならこんなふうに訳して絵本の日本文にするなあ、という気持ちは、容易に浮かんでくるのだった。
 そうしたら、著者の示すポイントを、結構クリアしているのである。そして、およそ通常の英文和訳では発生しないような日本語で私が訳していたのが、そのまま、著者の模範解答に並んでいたりするのだ。
 偶然だろうと思いながら、これはそんなに悪い気はしないものである。いい気になって、また次の頁の翻訳を試してみる。すると、偶然ではないらしい。私がこう訳すと思った点が、ある意味で正解であるということが明らかになる。
 そんなわけで、私は最後までこの調子で読んでいった。おかげでずいぶん時間がかかった。要するに、これは英語の力というものではなかった。如何に子どもの視点で、子どもに分かる語彙や表現方法をとるか、という問題であった。
 仕事柄、子どもにどう説明すれば分かってもらえるか、ということに神経を砕いている。この業界、教師が如何に物知りでも、子どもに分かる説明ができない教師は無意味である。私のように、知識がなくとも、説明でごまかせば、子どもは喜ぶ。
 まあ、私のことはどうでもいい。この本が、どんなに楽しい本か、が伝えたかった。
 もちろん、私の知らない絵本の世界の逸話や背景、さらには「儲かりますか」という素朴な質問に対する答えなど、絵本の現場の裏も表も全部紹介していいると言っていい本である。それは、何も翻訳に限らず、絵本というものに関心のある方は、ぜひ一読、という感じなのである。




Takapan
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