本

『絵本の本』

ホンとの本

『絵本の本』
中村征子
福音館書店
\1470
2009.7

 えらくまたシンプルなタイトルの本である。副題も何もない。表紙には、本の栞がそこにあるかのようなデザインがなされている。この構成は、中の幾つもの頁にも使われており、時折、栞がかけられているのかと錯覚して、それをつまもうとしてしまうのであった。
 資料としての絵本の解説などを入れるために、元々頁の上部が空けてある。本文もほどよく行が空いているため、情報量がその分少なくなっている割には、厚手の紙が用いられている。これはおそらく、「絵本」のイメージであろうと思われる。子どもが絵本を手にするときのわくわくする気持ち、ずっしりと重い感覚を、大人にも味わってもらおうということなのかもしれない。
 現場で子どもたちに絵本を提供してきた著者である。いったい子どもに絵本というのは必要なのかどうか、そんな疑問から始まるこの本だが、現場での体験を踏まえ、そのエピソードも交え、穏やかに、だが毅然とした主張を伴いながら、絵本についてのアドバイスが続いていく。
 基本的に、子どもは子どもの好きな絵本というものがあり、大人の見解とそれは別物である、というのが、この絵本論を貫いている中心にあるのではないかと思われた。大人の価値判断で絵本の善し悪しを決めることはできない、というのだ。昔話など、残酷な部分を省いてソフトにお話が提供されている昨今であるが、子どもたちへの遠慮は基本的に要らないのだと言っている。
 子どもたちに必要なものは何か。著者は、それを体験しているから、読者に伝えようとする。大人もまた、絵本から学び、子どもたちに伝えていく責任を負っていると言える。それはしかし、大人の見解で価値判断をしてしまわないという前提が必要なのである。
 私は、第八章の終わりにある、「子どもを信頼して」という部分にしびれた。まったく、私もそのように考えているからだ。絵本は何のためにという問題意識と結びつくかもしれないが、絵本を子どもに読み聞かせる、それはただ絵本を与えるより大切なことであり、絵本を通じて親の、大人の温かさを子どもに体験させ印象づけることもできるわけで、親子の場合は幼年時にしか得られずそしてその後の人生を左右するという安心感や世界への信頼感といったものを育むことにもなるといわれるのだけれども、こういう読み聞かせのときに、あれこれ蛇足のような説明を加えたり、子どもに内容を質問したりするようなことをしてはいけない、と著者は言う。子どもは感じている。子どもは黙っていても、心に感じている。言葉にできない子どもたちの事情があることも考えよう。絵本を読み聞かせたら、何も説明せず、「おしまい」とだけ言って本を閉じる「勇気をぜひ持って欲しい」と言っている。この言葉が、心に残った。
 このような信頼が、愛なのだということを、私は固く信じている。




Takapan
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