本

『子どもが危ない!』

ホンとの本

『子どもが危ない!』
江原啓之
集英社
\945
2004.9

 さて、どうしたものか。
 スピリチュアル・カウンセラーという珍しい肩書きをもつこの人は、これまでも沢山の著書を出しているそうだ。一部で大変な人気があることについて、寡聞にして知らなかった。
 神道を学ぶ中で、何か感じるところがあったのだろうか。著者はしきりに「霊」という。しかもそれを、ほとんど常に「物質」と対立させている。「霊的価値観」と「物質主義的価値観」とが比較対照されている。そして、その「霊的世界」はさらに、「自然霊」と「人霊」とに階層分けされるそうである。
 こうした決めつけ方に、人間は弱い。西欧中世でも、天使の序列のようなものは大問題だったらしいし、今なら幸福の科学がこうした説明をきっぱりすることで、本が大いに売れている。
 どうも、お薦めできない。
 美しいことが書いてあるのは分かる。青年期の私だったら、だいぶ惹かれたかもしれない。理想を貫くことが徹底して述べられており、それを汚すものは悪としてかなりきついお叱りを受ける。ちょっと小気味いい言い回しも多く、そうだそうだ、という感じで読めるかもしれない。
 しかし、そこに「よいこと」が書いてあるにしても、それを貫けばすべての問題が解決できる、ということでいいのかどうか。つまり、うまくゆかないときにはそれは社会や風潮が間違っているのだ、ということで、自分の掲げた理想、あるいはその理想に加担している自分はよいことをしているだけだ、と感じることはないのかどうか。疑問に思う。
 2冊の絵本の解釈が後半で述べられている。片方は物質主義的だとして、著者の激昂に触れたかのごとく酷評され、片方は無償の愛だと激賞される。私はその解釈には馴染めない。157頁から始まるこの話題だけをまずお読みになれば、著者の考えの仕組みがだいたい見えてくるかもしれない。また、「あとがき」に記された生い立ちも、著者の考えの仕組みの把握にかなり役立ちそうである。
 最後まで、教育問題に対する「具体的な」解決策は現れなかった。だから、教育に関心があってこの本を読んでみたい、と思われた方がいらしたら、待ったをかけたい。
 私も、「綺麗事」は好きである。しかし、その私が、この本の「綺麗事」の中に、厭なものを感じる。宗教的な空気の中で心地よい雰囲気を味わうことを止める権利は私にはないが、たぶん染まらない方がいいと思う。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります