本

『誰のための「教育再生」か』

ホンとの本

『誰のための「教育再生」か』
藤田英典編
岩波新書1103
\735
2007.11

 岩波らしいアングルから、教育の問題を論じた。6人のメンバーによる原稿を集めてできた本であるが、その6人によって、統一案としての提言が最後になされているように、よく意見がまとめられている。言いたいことも、とにかくはっきりしているのがいい。
 安倍晋三内閣のときの教育基本法改正が、ターゲットである。道徳の教科化はなんとか避けられたものの、今なお、なんで道徳を教科にしなかったのかとつつく新聞もあるくらいで、問題は根深い。そこには、愛国心を教育することが掲げられ、国家が教育を管理していくのだという姿勢が貫かれている。教員免許を10年ごとに更新制にするなど、画期的であるように見えながら、その実どういう教諭を失格にさせたいかは、これまでの経過からも怪しいともいう。君が代をピアノ演奏することを拒否した音楽教師は、どのように迫害されたか。そんなことはわずかしかこの本では触れられていないが、その実情はものすごい。校長が追いつめていく様子は、どう見ても「いじめ」にほかならない。
 こうした問題に加えて、全国統一学力テストの無意味さが、細かな事実の積み重ねも取り入れながら切々と語られ、子どもたちを締め付けるゼロ・トレランスの精神がいかに誤っているかが指摘される。
 名糖ホームランバーの当たりの偽装のエピソードは、ちょっと胸に響いた。その筆者が四歳のときに自分でホームランと書きお店に持っていくと、おばさんは「当たったね」と一本くれたのだという。いまなお忘れられないこの出来事は、考えさせられるものとなった。それも教育であったのだ、と。
 学力という点に関しては触れる余地がなかったようである。だから、この本に多大な期待をかけてはいけない。あくまでも、掲げられた教育改革のプログラムの根本に関する抗議である。多少なりともこの問題の背景を垣間見ておかなければ、読み誤る可能性があるにしても、比較的分かりやすく問題点が指摘されていて、読みやすい。他国の現状や法的な概念など、その道のプロが多角的に語ってくれているので、視野も広い。
 私たち親までが一定の枠組みの中に組み入れられようとしているのを知ると、恐ろしいものを感じるのだが、さて、教育という国の存亡に関わる事業に対して、どういう態度で臨むとよいのだろうか。




Takapan
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