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『特別の教科 道徳 Q&A』

ホンとの本

『特別の教科 道徳 Q&A』
松本美奈・貝塚茂樹・西野真由美・合田哲雄
ミネルヴァ書房
\1800+
2016.8.

 2018年に小学校で、2019年に中学校で、道徳が「特別の教科」として実施されるようになることが決定している。一部議論も呼んだが、いつの間にかそうなってしまっている。
 政府の熱意や希望で大きく制度が動くのであるが、現場の教師がまた大変である。方針の変更をどう理解し、どう実践すればよいのか。そのときどのような問題点が新たに浮かび上がるのか。そのときどう対処するのか。予想できるところは徹底的に予想し、さらにまた、想定外の事態にも備えなければならない。また、実際に始まってみなければ、どのようになるのか、分からない部分もある。ただでさえ休みなく働いている教師たちが、さらに新たな事態に招かれるのは気の毒でならない。
 しかしまた、教育される子どもたちのほうが、もっと深刻である。わずかな制度の変更によっても、子どもたちの学びや姿勢が変わってくる。ちょっとしたことのようでも、実はものすごく大きいことなのだ。
 ではそれはどのように変わるのか。それを説いたのが本書である。ゆっくりご覧戴きたい。
 著者には四人の名が連ねられているが、実質は読売新聞記者の松本美奈さんがまとめている。名だたる教育者の名が並ぶのは、いくらかの原稿をお願いしているのと、対談のような部分があるからであって、実質新聞社が取材を重ねたと考えてよい。それは、個性的な主張は期待できないものの、たしかな情報として冷静に事態をまとめているという意味に理解してよいだろう。もちろん新聞社の考えというものも反映されてはいくだろうが、概ね、この教育改革のあらましが描かれると見てよいだろうと思う。
 それを、見開き形式のQ&Aで展開し、その都度「ポイント」をまとめているため、読者の立場からすると大変分かりやすい。現場の教師も、これ一冊で、さしあたり道徳教科についての認識を明確にすることきができるのではないかと思われる。
 さらに、ゲストの考えも聴くことにより、どう解釈するかについての学びもできる。そこには、明らかに食い違うところも紹介されている。だがそれがよいのである。一辺倒で一つの理解しかないということのほうがむしろ危険である。これをどう理解するか、専門家の間でも理解の相違があるという部分を示すことが、実は公平な途でもあるはずだ。それが、問題点の発見にも役立つことになるだろう。
 また、その巻末には資料編が付せられており、政府資料がそのままに掲載されている。これはまず最初に見るものではないかもしれないが、明確な基準がここに用意されているので、さらに調べるときにどうしても必要なものである。
 このように、資料としても理解のためのものとしても、かなり有用なものに仕上がっている気がする。Q&Aとしては実践的な観点からもふんだんにアイディアが載せられており、十分参考になる。また、それが客観的に正当であるということをいうよりも、現段階で理解できる事態を的確に紹介しているという意味で、十分有用であるはずなのだ。
 確かに、かつての修身に否定的な人の中には、実際に修身の教科書を見たことすらない人もいる。政府が何を目論んでいるかを考えたい人も、これを機会に様々な資料を適切に扱えるようになったほうがよいだろう。その素材として、面白いものができたと思う。




Takapan
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