本

『同志社精神を考えるために』

ホンとの本

『同志社精神を考えるために』
同志社大学 良心学研究センター
\100
2023.3.

 電子書籍でのみ発行されている。学内では2月に発行されたのかもしれないが、一般に入手できるものとしてはこれのみである。そもそも無料だったのかもしれないが、電子書籍の販売価格としては税込み100円である。儲けるつもりはないらしい。ただただ同志社精神を知ってほしいというだけの目的のようだ。その「同志社精神」というのは、とりもなおさず「新島襄の考え」であると言えよう。新島襄の言葉を頼りに、またそれにまつわる人々の声も加え、すべてにわたり、現代の視点からセンターのメンバーが解説を加え、反省や希望をも明らかにするといった形をとっている。その意味では、過去と現在あるいは未来との応答になっている、ということもできるだろう。
 その意義や解説については、電子書籍の紹介欄をお読み戴くのが一番よい。私がへたに説明をしようとして、その意図を曲げてしまうことは慎まなければならない。
 大学の存立そのものが、現在、岐路に立たされている。短大が次々に閉じられている。少子化が原因であるともいえるが、ニーズの不足に伴う、必然的な結果である。それは、今後は四年制大学にも及ぶことが考えられる。一部の人気大学は必要であるにしても、そうでないところは、如何に魅力を伝えることができるか、そこに生命線があるものと思われる。
 同志社は、当然人気大学である。だが本当にそうなのか。危機感は要らないのか。決してそうではないだろう。経営的にも、国が特に文科系大学への圧力を高めているが、同志社にとり文科系を削ることは、大学の意義そのものを否定することになりかねない。いったい同志社とは何であるか。
 それは、最初に刻まれたものを一途に護ればよいというだけのものではないだろう。時代に合わせて変化するところも求められるはずだ。しかし、何もかも変えてとにかくなんとか生き延びるのだ、という方策を採るわけにもゆかない。同志社でなければならないもの、アイデンティティというものを蔑ろにすることはできないであろう。
 故きを温ねて新しきを知る。同志社の伝統とは何か。それを今後どう用いてゆくのか。それらは、教員やスタッフの抱える問いであるものと思われる。それを自ら問い、自らいまの時点での答えを表してみる、といったところからできた、パンフレットにしては厚すぎるこの本であるのかもしれない。
 大学を存続させる、それが目的なのではない。大学は社会に何をもたらすことができるのか。新島自身は国をとても大切に考えたし、それもゆるがせにはできないことなのであるが、国が究極の目的であってよいともすることはできないであろう。同志社は、キリスト教と聖書に基づいて成立した。但し、その教義を広めるという教会めいた目的は、一旦脇に置いている。それでよいと思う。
 新島は、キリスト教を信じろと迫っているのではない。そのために、まとまった本を著すことはしなかった。しかし、随所で言葉を投げかけている。自らに戒めるように放った言葉もある。学生たちになんとか伝えようと叫んだものもある。それらはどれも文語体であるために、本書は適宜良い解説を加えている。また、現在のスタッフの考えや決意のようなものも、そこに載せている。すると、新島の言葉が「生きた言葉」であるだけでなく、「人を生かす言葉」となって掲げられていくことになる。学問的な領域で、聖書に潜むスピリットが、若い人々へと注がれていくことが、熱く語られているのだと思う。
 本書の編集は、2025年を視野に置いている。創立150周年を迎えるからだ。キリスト教では、ヨベルの年という、50年毎の区切りが考えられている。その意味からしても、この150年という区切りに意味をもたせることは大切だとされるのであろう。それはまた、次の50年をどう生きていくかという幻にも関係する。世界が困難を極める中、同志社に何ができるか、何を求められているのか、それの問い直しは、大切な営みであると言えるだろう。
 本書の紹介は、次のような文で結ぶ。これをお伝えすれば、本書の必要性は、確かに伝わることだろうと思う。「本書の読者が、同志社精神に触れ、その価値に気づき、そのよき理解者となるだけでなく、よき実践者となってくだされば、望外の喜びである。」




Takapan
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