本

『読む力を育てる マーガレット・ミークの読書教育論』

ホンとの本

『読む力を育てる マーガレット・ミークの読書教育論』
マーガレット・ミーク/
こだまともこ訳
柏書房
\3,500
2003.4

 本を読まなくなったのだろうか。読む人は依然として読んでいる。読まない人は、相変わらず読まない。そんな構図のようにも見える。ただ、文学ブームとやらがないために、広く読まれなくなった。インターネットでも携帯電話でもそうだが、多くの、ある意味でどうでもいい情報があふれているがために、コストが低く抑えられるという事情がある。正当な利用者だけが秘密裏に使用するだけならば、いくら金があっても足りないくらいの費用がかかるだろう。悪貨は良貨を駆逐するという言葉の意味とは違うかもしれないが、多くの利用者がいて初めて、安価な利用が保証できるという事情もある。その意味では、本をとにかく買う人々がいて初めて、本の出版業が成り立つのであり、本が買われなくなると、それが苦しくなる。ネットが中心の生活になると、本の利用は確かに減るというのもあるが、問題はそういう内容に限らない。
 子どもたちが、本に触れずに育つという、恐ろしい事態が待ちうけているのである。これはよほど深刻である。それが、自然のものに直に触れるがゆえに、書物の知識に頼らないというのならばまだしも、バーチャルな空間にはいくらでも触れるくせに、実物にも、書物にも関与しないというのは、人間が滅びに向かって転げ落ちる契機であるかもしれない。
 想像力をなくしたら、もう終わりだ。だからこそ、子どもたちには、本の楽しさを知ってもらいたい。そのためには、大人自身が、本の楽しみの中に生きていなければならない。
 筆者は、温かいまなざしで、子どもたちに呼びかける。いや、子どもたちを指導する大人たちに呼びかける。
 最良の教師は、読書が楽しくて、するだけの意味があるものだと確信を持っており、自分の喜びのために「子どもと共に読んでいる」のである。読むことを学ぶうえで最も大切なのは、読書に関心のある大人たちと、良い本なのだ。(p116)
 訳者もまた、加担する。この教師たちがゆきすぎて、さもこの読書指導法だけが優越感に浸るようなことのないように。
 最後の段階ではいかに善意であっても、大人たちは身を引き、若者たちにとって最良の教師――彼らを読者として選んだ、優れた作家たちに後をまかせるべきである。(エピローグ)
 年齢毎に、どう本と触れ合っていけばよいのかを丁寧に語った、秀作である。ただし、イギリスの絵本などについては、十分理解できない部分も多かった。その道に詳しい人が読めば、たまらないのだろうな、と思いながら。




Takapan
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