本

『ドクロ』

ホンとの本

『ドクロ』
ジョン・クラッセン
柴田元幸訳
スイッチ・パブリッシング
\2700+
2024.4.

 カナダの作家であるジョン・クラッセンは、本書の出版された時点でまだ42歳。日本語訳された絵本は、関西弁のユニークなタイトルが付けられている。どこかとぼけたような、デフォルメされた動物のイラストが目を惹く。
 訳者は、自分の贔屓目かもしれないと断りつつも、これまでの作品の中でも最高傑作の部類に入るだろう、と賞賛している。
 絵本という物語であるため、ストーリーを全部紹介するわけにはゆかない。だから、帯に書かれてあることをまずお知らせしよう。これならあまり問題はあるまい。  「隠れて休む場所が要るんです」「お入り、屋敷の中を案内するよ」。ある夜、森の中を逃げて来た少女オティラは、古い屋敷で礼儀正しい"ドクロ"と出会う。やがて奇妙な友情で結ばれていくふたり。しかしドクロには、ある恐ろしい秘密があった――。
 あまりその「秘密」という誘い文句を気にしすぎないほうがいい。だが、「逃げて来た」というところは私も引っかかっていたが、そこもまた謎にしておくべきだろう。なにしろタイトルが出る序幕で先ず、「ある夜、みな寝しずまった真夜中に、オティラはとうとう逃げた。」から始まるのである。
 絵は暗い森の中。雪が降っている。カナダの作家であるから、普通なのかもしれないが、まずここから謎めいており、何かを隠しているように思わせる。「森」とうのは特に、ヨーロッパ、たとえばドイツでは大きな意味をもつ場である。木には魂があると考えられていたり、森を重んじる考え方が自然にあった。あちらの童話になにげなく「森」がよく登場するが、それだけでもうわくわさせる仕掛けがあると考えられたのであった。日本でも、「鎮守の森」という考え方があったのと、比較してよいかもしれない。
 もう走れなくなり、死を覚悟したオティラだったが、森の中に古い屋敷を見つける。そこの窓際に、ドクロがいたのである。帯にあるから敢えて説明しておくが、このドクロはオティラと話をし、しかもちょっと弱気なふうな話し方をし、やけに慇懃である。そして少女オティラも、このドクロに恐れ一つ抱かない。さもそれが当然すぎることであるかのように、ドクロと話をする。屋敷のあちこちに面白いところがあるので案内され、2人は楽しい時を過ごす。そしていよいよ、ドクロの悩みをオティラが聞くことになる。
 この程度で堪忍してもらおう。ここに挙げていないように、ユーモアたっぷりの表現も幾度か出て来て、その繰り返しに子どもたちもにっこりするだろう。ドクロという恐怖の対象が、なんともユーモラスに、親しいペットや仲間のようにそこにいることを、知らず識らず認めるようになるだろう。
 表紙の、青ざめた景色とオティラの表情が、本当は怖いし、オティラが胸にドクロを抱いているのは、なおさら気持ち悪い、と思わせるに違いないのだが、それは表向きだけのことであった。
 やられた感が強いのが、物語の最後のその後に書かれた「著者あとがき」である。「この物語はアラスカで見つけた」のだという。アラスカの図書館の棚にあった「ドクロ」という民話が忘れられなくて、後から調べたら図書館の人が見つけてくれた。改めてそれを手に入れて読むと、自分の覚えていた物語とずいぶん違う……。
 というか、この「あとがき」までを含めて、物語の一部となっている、と見るべきではないだろうか。どこまで本気で、どこから騙しているのか、もう私には分からない。
 本のクレジットが記された後に、「訳者あとがき」がある。これもふざけた仕様である。クラッセンの紹介もちゃんとしてあるが、本書の鋳掛けについても少し触れているので、どうか物語を読む前に、これらの「あとがき」を、努々読むことのないようにお願いしたい。




Takapan
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