本

『時間の図鑑 時計の時間・心の時間』

ホンとの本

『時間の図鑑 時計の時間・心の時間』
一川誠監修
金の星社
\4200+
2024.12.

 価格が高いのは、これが図書館用堅牢製本であるためである。丈夫な厚い表紙が付いている。小学生が扱うに相応しい装丁となっているし、文字の大きさもふりがなについても、小学生で対応できるものとなっている。
 だが、内容は必ずしも小学生用ではないと思う。
 時間についての問題の、基本的な領域が、本誌には実に広範囲に語られている。並の大人が知っていること、気づいていることは、本書のごくごく一部ではないだろうか。
 個人的に、私は思索のテーマの一つを、この「時間」というものに置いていた。多面的にそれを考え、それなりの図書を開いてきた。ここには、それ以上の論点が盛り込まれている。ここにないのは、物理的な数式やその理論の詳細くらいである。というのは言い過ぎであろうが、大まかな問題の入口は、確かな足跡がつけられていると言ってよいと思う。
 しかも、その語り口調が柔らかく、なるほど小学生が読んでもついていけるような、優れた説明がなされているのである。このような説明をすると、読む人は分かりやすいのだ、という見本のような叙述であり、しかも図表が豊かに置かれている。非常に読みやすい。
 まず、「時間の不思議」と題して、時間が捉えづらいこと、過去・未来・現在という捉え方でよいのかどうか、バラドックスがあるということ、哲学者や神話、宗教において時間を考えていたことが概観される。
 次は「暦と時計」ということで、日時計から時計の歴史、太陰暦と太陽暦の仕組みから、機械式時計の現れ、クオーツ時計からついに原子時計の説明にまで至る。
 それから「物理からみる時間」ということで、ニュートンの時空から、光に関する実験経て、相対性理論と光の性質が取り上げられる。それが、小学生でも興味をもてば近づけるように書かれてあるから面白い。その時空概念からは、ブラックホールへと言及され、星の一生から宇宙の歴史にまで至る。私が好きなところだ。そこから、小学生でも気になる人がいるかもしれない、パラレルワールドやタイムトラベルの可能性についても触れていて、楽しい。
 さらに「生物がもつ時間」となると、それまでの客観的な時間が、生物というフィールドで説明される。一生を時間で計るということは、ゾウの時間ネズミの時間、というかつて話題になったことと関係するが、そこからさらに、体内時計や時間の感覚について、興味深い指摘をする。
 年齢を重ねると時間が早く過ぎるのは何故か、ということである。経験に新鮮さがないことが心理学的に語られることがあるが、最後の「心と脳の時間」ではそのような時間意識が話題である。「代謝の低下」が、心の時間をゆっくり進ませるために、時計の時間が速く進んでしまったように感じるのだ、という説明がなされていて、私には新鮮だった。
 超越錯覚と呼んだ人がいたが、危機的状況において、感覚が視覚に限定されて他の感覚がシャットアウトされるために、いわば高速度カメラで見るように現象を認識する、ということも言われる。ただ、本書はそうした心理的な時間意識については、定説がないからなのか、よく分かっていません、という書き方をしている。たぶんそれでよいと思う。
 確かに時間は、時計で計る。だが、その時間がすべてではないだろう。文学や哲学は、そこのところに行き着くように見える。時間とは何か、アウグスティヌスが言ったように、それは説明しようとすると窮地に陥る性質のものである。だが、「いま」を大切にすることは、若者の歌を引用するまでもなく、多くの人が口にする。しかし、客観的な表示による時間に合わせねば社会生活ができない、という側面が強調されすぎると、ナイーブな心の持ち主は、心を病むかもしれない。体に直接問題を起こすかもしれない。本書では、朝日光を浴びるという、よく言われていることを、子どもたちに推薦することで結ばれるのだが、さて、大人も改めて、こうした呼びかけに応じてみてはどうだろうか。また、この本を通じて、どこか近づきやすい入口を見出して、自分の「時間論」を問うてみては如何だろうか。
 なかなかよくできた本であったと思う。




Takapan
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