本

『デジタル社会はなぜ生きにくいか』

ホンとの本

『デジタル社会はなぜ生きにくいか』
徳田雄洋
岩波新書1185
\735
2009.5

 くれぐれも、これはパソコンに触れないご老人のぼやきではない。情報科学の最先端を知り、ソフトウェア開発の先人でもあるような現場の著者が、鮮やかにこの情報社会の問題点を浮かび上がられている本である。
 時にドラマ仕立てで、時にSFかと思わせるような描き方で、デジタルに依存した社会の問題点をはっきりと目の前に置いてくれる。そのような懸念が少なからずあるということをも踏まえ、専門家であるゆえにその背景や未来を見せてくれるのである。
 だが当然、現在私たちが日常的に出会っているはずの、コンピュータ操作の不都合な点を描くことが、何よりも急務である。ネットショッピングをする。注文をクリックしたが、どうもおかしい。画面が止まった。やがてなんとか動くようになり、先ほど止まったから、ともう一度手続きする。すると、商品が二つ送られてくる。ありそうな光景である。これには原因がある。簡単な理屈である。
 ネット社会において、それがあまりにも広くつながっているために、トラブルがあった場合、どこに問題があるかということは、簡単には分からないことが多い。これがパソコンに限らず、ATMの操作や、ネット経由の支払いなどにおいて、あまりにも簡単に大金が動く原理がそこにあり、現実感を伴わないことがあるゆえに、とんでもない結末が待っているということがありうるのだ。
 まあとにかくあらゆるケースやリスクが取り上げられている。パソコンを使いそこそこの理屈や仕組みを知っている人は、どんどん読み進められるであろう。
 デジタル社会のここ半世紀の歴史を踏まえ、せめてこれだけはリスクだと考えて危険性を避けようという呼びかけもあった。これは好ましい姿勢だった。悪口をただ言うのでもないし、すべてを礼賛するのでもない。このデジタル社会からそう簡単に抜けられるわけでもないのだから、どうやって付き合うか、が問題だ。つかず離れず、自分の頭で考え直に人と議論し合うようなあり方を前提とした上で、半分だけ信用するようなつもりで、デジタル機器を使うがよろしい。著者はそのような姿勢を大切な結論として抱いている。また、そのような提案がまだいくらかある。私たちには聞き逃せない内容である。
 流行りの、疑問文のようなタイトルは、売れ筋効果を狙っているものと思われる。ただ、この本は、指摘した問題点をうまく扱っているようにも見える。生きにくさというキーワードは、やはりこの本には大きな中心の位置を示している。そして、それと共に生きなければらない私たちの覚悟のようなものも、感じられる次第である。
 やっぱり、個々人が自ら思考することは、非常に重要なことなのである。




Takapan
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