本

『世界に挑む! デフアスリート』

ホンとの本

『世界に挑む! デフアスリート』
森埜こみち
ぺりかん社
\1700+
2024.11.

 2025年11月、日本初のデフリンピックが東京で開催される。その一年前に、関心を高めてほしいという意味からであろう、本書が出版された。
 そもそもデフアスリートとはどういう存在か。デフリンピックとは何か。それを伝える必要があるだろう。その歴史や内容を、たくさん教えてくれる。サブタイトルにあるように、「聴覚障害とスポーツ」という、広く理解されてほしいことを示すのが、本書の最大の目的ではないか、と勝手に思っているから、正に本書のエッセンスはそこにあると思う。
 だが、本書でとても目を惹くコーナーがある。それは、デフアスリート当人のインタビューが多く載せられていることだ。実際の選手について、デフリンピックとの関わりや、聴覚障害とこれまでのつきあいなど、魅力的な声と写真が、魅力的に並んでいるのだ。それも、初めと中程と終わり頃というように、本のあちこちに花を飾るかのように、笑顔一杯の写真と抱負がたっぷりと輝いている。内容も含めて、たいへん好印象なインタビューなのだ。
 理論的に、あるいは理念的に、いくら主張を繰り返しても、へぇそうですか、で終わりかねないのが世の常だ。だがここには、「ひと」がいる。「ひと」が見える。それぞれの経験が、このデフリンピックへとつながってゆく、その息吹のようなものが感じられるのである。私は、これが本書の最大の魅力ではないか、と見ている。
 アスリートとしての経緯は、人さまざまだ。野球が好きだったのに、進学した環境にそれがなかったのでサッカーを始めたとか、小さな頃から世界一になりたいという夢をもって練習を続けて来たとか、トランスジェンダーであることに後に気がついたとか、ろう学校の寮生活で泣いてばかりいたが、その後卓球を遊びで知ってから練習をしていたら市大会で優勝してデフリンピックへの声がかかり、世界で銀メダルに輝いたとか、もう一つひとつがドラマなのだ。
 ろう者だから手話を使うとは限らない。むしろ後から知ったという声も多いし、口話ばかりだ、という声もある。海外の大会で初めて、国により手話が異なるのだと知った人もいる。
 また、それぞれの競技での練習の仕方や、聴者とは違うルールのこと、また、聴者と一緒に練習するときの配慮など、選手生活で出会ういろいろなことが紹介されるので、とても身近に感じるし、発見もある。
 全体的に、とても明るく紹介されているのもいい。ろう者の聴覚の度合も人それぞれ違うことや、補聴器の意味も伝えてくれる。もちろんろう教育の歴史や手話についても、簡単なことだが、恐らく多くの人にとっては必要十分なくらいの内容が書かれている。爽やかな書きぶりである、と言える。
 中盤には、デフリンピックの歴史とその内容がたっぷりと紹介される。デフリンピックを身近に感じるためには、最大のポイントであろう。その歴史が、パラリンピックよりもずっと古いこと、またそれがどのように始まったかということなど、知ってもらいたい多くのことが載せられている。競技についても教えてくれるが、やはりオリエンテーリングとボウリングという辺りが、とても面白い。その競技をろう者の立場からはどのように見ており、また聞こえない場面でどのようなことが起こっているのかなど、的確に伝えてくれるので、スポーツという領域に限らず、いろいろなろう生活も理解するきっかけになるのではないかと思われる。
 たとえば運転免許や医療職について、法律が変えられていったことなど、ろう者やその近くにいる人にとっては当たり前のことも、一般からの理解があまりなされていないであろうようなことも、さりげなく書かれている。特に、マウンテンバイクの選手である早瀬久美さんが薬剤師に挑むことは、いくらか詳しく書かれていて、頼もしい。私はその件についての詳しい本を知っているので、よく知っているのだが、こうしたことが広く知られるようになってほしいと願っているので、ここに明らかにされたことをとてもうれしく思う。
 最後に、応援するために知っておくとよい、本の少しではあるが、手話が紹介されているところが、また心憎い。拍手は当然としても、「頑張って」とか「応援してる」とか、そして「おめでとう」とかいう程度で十分であるだろう。さらに、国際手話もある。
 こうして、従来孤立した別社会であったようなろう者と、聴者との世界が、「つながり」をもつようになること、それが本書の願いであることを打ち明けて、結ばれたように見えるかもしれない。否、そのような主張ではない。ろう者も聴者も関係がない。願うのは、「人とのつながり」である。デフリンピックとパラリンピックが一緒にならなかった理由のひとつが、経費の問題であることも中で語られていたが、競技としては別々で仕方がないにしても、こうした大会の開催によって、どのような立場の人でも、互いにつながってゆくことが望ましい。そこに、平和の基礎がつくられることを願っている。




Takapan
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