本

『デザイナーズハンドブック』

ホンとの本

『デザイナーズハンドブック』
パイ インターナショナル
\1995
2012.11

 デザイナー必携と称する本は数多あるが、素人が親しみやすく、それでいて痒いところに手が届くように書かれてあるものとして、有力な一冊が現れた。
 とにかく可愛い。女性が企画し、制作しているのはもちろんだが、パソコン画面の写真のほかは、殆どが手書きのイラストなのだ。それも、カワイイ調の。
 プロはもうとうに分かっていることが多いのだが、たしかに表紙にも「これだけは知っておきたいDTP・印刷の基礎知識」とあるだけあって、情報量は多い。印刷物を作るために必要な知識が網羅されている。それも、印刷の基礎知識から解き明かしてあるので、ただカタログのようにそこに羅列があるわけでもなく、その理由は背景なども納得しながら理解していくことができる。
 グラフィックデザイナーを目指す人や、今デザインの仕事に就いているが疑問や難問に日々出会う人のため、とこの本は記している。が、私には、学校や地域、サークルで何か印刷物を作ろうとする人のニーズにもよく合っていると感じた。
 つまり、今やパソコンを多くの人が扱えるようになり、ちょっとした印刷原稿は誰にでも作ることが可能になりつつある。しかし、なんとか原稿をこしらえたにしても、それをどうやって印刷屋さんに頼んでよいのか分からない。いや、そもそも原稿として知っておくべき常識も知らない、そういうケースが多いような気がする。
 幸い私は、ワープロの初期から多額の投資をしてその道に親しんできた。だから経験的に、失敗を重ねつつ知識を得てきた。しかし、今ひょいと印刷物を作ってしまった人は、そういう経験なしにもうチラシを撒こうとしている。プログラム印刷にしろアピールにせよ、DTPの基本なしには済ませられない。中には幼稚園の卒園アルバム制作などというけっこう重いケースもあり、苦労して作ったものの写真画像がそれではだめだとか、マックをもつ業者との間でデータが合わないとか、知識の問題ということが待っていそうなのだ。さらに、著作権や肖像権などについて無知なまま原稿を作ってしまうと、今度は法的な問題に発展する可能性が出てくる。まさか法律だなんて、などと知らなかった弁明をしても無意味である。
 とにかく、あまりに広く技術が行き渡ったものだから、こうしたハンドブックはもっともっと必要の度合いが強いものと私は認識している。
 むしろ、マナーにしろなんにしろ、社会常識とされたものや、社会的に皆で気持ちよく従えばよい習慣について無知な人が巷に溢れている、そのことがそもそもの問題なのかもしれない。どうして電車の中で大声で話せるのか、ドアを背に立つのはエレベータと同じだろうに、自分は音楽をシャカシャカ言わせて人のほうに体を向けるようなことができるのか。傘を横に握って手を振りながら歩けるその神経、それがむしろ問題なのだ。初めから気遣いのできる人は、こうした印刷物についても基本からよく学んだうえで印刷物作成に取り組んでいるのだろう。街なかでいたずら写真を撮ることに精を出すというのも、同じような世界の話なのかもしれない。
 だから、こうしたハンドブック、少しばかり値は張るのだが、それに見合った内容であることは請けあうから、経験のない人は常備するといい。これは役に立つ。そして、学校や幼稚園も、ひとつ用意しておいて、毎年の担当者・編集者に必ず見てもらうようにしておくといい。
 いや、私も欲しいと思った。それくらい、実際的に出会う問題にいての解決がここに溢れている。損はない。




Takapan
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