本

『ダメ情報の見分けかた』

ホンとの本

『ダメ情報の見分けかた』
荻上チキ・飯田泰之・鈴木謙介
NHK出版生活人新書334
\735
2010.12.

 若手三人の手で、「メディアと幸福につきあうために」という副題を添えて、それぞれの角度から、このネット時代に特に大きな意味をもつようになった、大量の情報の中で生きる現代人の、情報に対する姿勢を問い、対処を提案する意欲作。
 大学の大御所というわけでない(但し准教授が二人)この世代が、おそらく、コンピュータやインターネットの普及しない青少年時代から、それを受け容れて大人へなっていった世代のあたりだと思われる。それは、夢中になって取り組んだと共に、これでよいのかと問い直すことのできる最後の世代であるかもしれない。今の子どもたちのように、生まれたときからそういう情報洪水が当たり前という時代にあっては、自分の体験の中で知る、それのない時代という比較対象をもたないことになり、自分の拠って立つ基盤において問いかけることができなくなってしまうのである。
 いわゆる「リテラシー」という言葉が話題になって、たぶん十年ほどが経っている。しかし、一般になじむようになったものの、大きな誤解のもとに使われるようになっている懸念があり、また、それ故に肝腎のその言葉により問題意識が消失し、騙される危険が増大しているのかもしれない。三人で等分して論じられる最初は、この騙されるということを、さらに、自らが騙す立場に立っていることに気づかせてくれる、よい論考である。「ウェブ時代の流言リテラシー」という看板がぴったりである。どうすれば騙されないか。それについていくつか箇条書きなどをしたら、そこらの三流週刊誌の特集記事になってしまう。深い検討とともに、より原理的な指摘がどこかで必要であろう。内在的に、あるいは外在的にチェックする必要のあることを、筆者は提案する。しかしまた、それで十分であるとか、リテラシーのすべてであるとか、考えているわけではない。私たちは、このリテラシーの必要性と共に、生活をしていかなければならない運命の中にいるのである。
 二人目は、情報を捨てる技術を紹介する。これもまたもちろんリテラシーの問題であるが、せっかくの情報を見過ごすことにより、損失があるかもしれないと共に、嘘の情報、ガセネタを掴まされることによって、甚大な損害を受ける危険性もつねにあるのが現代である。何を以て、偽の情報だと判断すると良いのか。難しい問題ではあるが、よりよい方向を少しでも見いだそうという意気込みが感じられる。具体例も多く、読んでいて一番面白い章かもしれない。もうかりますよ、という情報がなぜ信じるに値しないのか、えらく予想の当たる情報が来るときに信用してよいのか、根拠のあるような科学的なデータが実は信用できない場合のメカニズムなど、私たちがよく出会うような事柄について冷静な味方を提供してくれるのである。データを検証する試みは、経験的に知恵ある人はやっていることではあるけれども、それを明確に提示してくれるのが頼もしい。
 最後の章では、社会学者が、政治的な状況の中で情報がどう利用され、またその意味を賢く見いだしているべきであることなどを解説する。もちろん、メディア・リテラシーというこの本の視座からの検討である。民主主義と言いながら、私たちは様々な情報操作の危険の中にある。その中で、画一的なものを嫌悪する時代の趨勢があるとしても、では少数の意見をどうするのか、それはしょせんひとりひとり違うのだからすべてを認めるべきだ、という単純な結論で解決できるようなものではないと思われる。社会的な判断では、「みんなちがってみんないい」ではすまされないのである。なぜなら、「オレは人を殺すことはいいことだと思う」という思想が、果たして思想の自由のもとに護衛されるべきであろうか。ロールズの正義論から最近もてはやされているサンデルなどを含め、政治的な正義の概念にも触れられて、なかなか議論は広く、また深い。闘技的民主主義なる面白い説も紹介されてこの章は閉じられるのであるが、おまけのようにして、先般の蓮舫議員の事業仕分けにおける「二位」発言に対する言論のまとめが図られていたのがまた面白かった。
 それぞれに味があり、厭きないうちに結論を持ち出してくれるというのも、読みやすい。こういったスタイルの新書というのは、案外よいものだ。私もまた、騙す情報を流しているかもしれないという自己チェックを続けていかなければならない。そして、もちろん捨てられても当然ではあるものの、捨てられない情報を流していきたいものだとも思った。そして、自由や正義といった問題が、もっと切実な生活と人生の隣人であるということをもね改めて感じた次第である。
 大いに、こうした題材により、多くの人が思索を深めていって戴きたいものだと願う。




Takapan
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