本

『だます心 だまされる心』

ホンとの本

『だます心 だまされる心』
安斎育郎
岩波新書954
\735
2005.6

 NHK教育テレビの「人間講座」のテキストをもとに作られた新書である。私はこのテキストのほうも楽しんだ。
 そう。楽しんだ。他人事ではなく、自分もまた、騙された経験をもつがゆえに、むしろ痛々しく読んだと言った方がよいのだが、人間を欺く手段はいくらでもあるものだと、改めて確認することができた。
 本書を結ぶにあたり、騙されないための知恵も授けてくれているのだが、多分に、自分は騙されるはずがない、と思っている心が一番危ないという。それはそうだ。自分は事故を起こすはずがない、と思い込んで運転されたらたまったものではない。さらに、霊視能力があるなどと言って金を要求してくる者がいるならば、どうしてその能力が犯罪捜査に用いられないのか、という簡単な視点を得ることで、それが信用するにあたらないことを見抜けばいい、というふうなことがたたみかけられる。
 それでも、「もしかすると自分の時だけ当たるかもしれない」という思いが入るから、ほやっと騙されてしまうのかもしれない。
 著者自身、手品を愛好し、人の目をごまかすにはどうすればいいのかを体得している。まさに手品のごとく、金を巻き上げようとする輩は、ごまかす方法をマスターしているのだ。あらゆる手品の種を見破っているならともかく、素人は、騙すプロたちからすれば、絶好のカモであるのかもしれない。
 人々が常識であるかのように口にすることでさえ、あるいは科学者が堂々と主張していることでさえ、いかに頼りないものであるかが、随所に語られる。
 アメリカで動きがあるということだが、進化論が正しいと当たり前のように主張することでよいのだろうか、という考え方もある。
 私たちもまた、一人一人が考えて、自分の行動を決めていくようになりたいものだと、本当に思う。
 また、オウム真理教の事件からも、騙しのテクニックを学ぶことができるだろう。いとも簡単に思考の可能性を狭めてしまうことになるものだ。ものを考えるという行為について、もう一度かみしめてみたくなってきた。




Takapan
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