本

『なぜ騙されるのか?』

ホンとの本

『なぜ騙されるのか?』
村千鶴子
新日本出版社
\1470
2007.11

 副題には「悪質商法の見分け方と撃退法」と記されている。こちらのほうが、いわばメインタイトルに本来相応しい内容であるが、近年これでは本は売れないらしい。
 著者は、弁護士であり大学教授でもある方で、消費者法が専門である。多くの肩書きと共に、消費者保護のための相談に乗り、あるいは委員を務めている。
 学問的な裏打ちのある方は、しばしば原理的な述べ方をする。この本でも、消費者保護のために、騙される背景を、ひとつの原理で説明していた。それは、経済的原理でないものによって経済活動が動かされる隙間に、騙される可能性が入り込んでいる、というようなものだ。時に人情、時に交友関係、そうした心により、「まあいいか」と思うようになり、ついには経済活動を起こしてしまう。結局、それは金を巻き上げられるための道筋ということのようだ。
 なにも、金を払うときに、すべてが原理的になされよ、と提案しているのではない。騙される構造がどこにあるか、という点で原理的に説明しているのである。
 消費者センター関係とも関わりがあるというせいもあり、現場で聞かれる声もよく把握されている。具体的に何が問題であるのか、どういう手口があるのか、あるいはまた、騙すつもりがないような事態があったときにも勘違いして騙されたようになっている例があるなど、実に配慮の行き届いた内容となっている。
 惜しいと言えば惜しいことには、見開きに内容一つという、見やすさを心得た編集とは異なり、イラストや図表の一つもなく、延々と文章が続くタイプの本であるため、果たして今風の軟弱な本に慣れた読者が、どれほど読んでくれるのか、そしてどれほど役立てることができるのか、という点に懸念を覚える。巻末に、相談窓口の電話番号一覧が掲載されているのは実際的だと言えるが、索引もなく、「待てよ」と調べるときには不便である。
 たしかによいことがたくさん書かれている。冒頭には、自信のある人や質問をきちんとなす人もまた、あるいはそういう人こそが、しばしば騙されているという現実とその背景が説明されるなど、興味深い内容も多かった。もちろん、手口の実際を知らせて戴くことは、貴重なアドバイスだと感じることができた。
 それだけに、この本が訴えたい哲学を、文章を読みとる人に伝えるために文章を長くするのは仕方がないとはいえ、もう少し見易く受け止めやすく編集することで、この必要で大切な知識を、もっと広く世間に行き渡らせることもできるのではないか、と、少しばかり残念に思うのであった。




Takapan
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