本

『読み書き<代読・代筆>情報支援員入門』

ホンとの本

『読み書き<代読・代筆>情報支援員入門』
読書権保障協議会編
小学館
\1260
2012.3.

 タイトルには「高齢者と障害者のための」と付けられている。
 この高齢者という問題は、実は非常に重い。高齢化社会の中で、身体的能力の衰えは避けられず、その人数が増えていく。もちろん、介護という問題も深刻である。しかし、何も寝たきりでない高齢者は問題がないという意味ではない。通常ならば難なくできるであろうコミュニケーションにひっかかりができると、ひとつの単純な役所での手続きが滞るようになる。視力が衰えたとなると、重要事項の説明の文字が読めない。手が震えれば書類の記入やサインができない。聞こえにくくなると説明を聞き取ることができない。こうしたハンディキャップをもつ人の割合が格段に増えるということになるからだ。
 誰か家族にしてもらえばいい。そうお思いならば、高齢者だけの家庭がどれほどあるこに思いを馳せるとよい。また、私たち自身が、そのように親から離れて暮らしているとなれば、その状況をつくっているのはまさに自分なのである。
 そして、障害者にとっては、ますます誰かが十分フォローしていくのでなければならない。ひとりの人として認めないなどという過激な思想は、今では許されまい。本人に落ち度もなくそのような不自由な生活を強いられているとなると、その社会活動を妨げるようなことがあってはならない。
 この本は、そうした視点から、しかし基本的には視覚障害者のための社会生活を支える方策を紹介し、また理解を求めるというように作成してあるように見える。印鑑一つ押すのに難儀であるような方々に、社会は、荷物が届けば印を押せ、サインをしろ、というルールを勝手に作り、押しつけて困らせているようなことがあってはならないのである。
 読み書きという、必要な手続きのためのサポートをどのようにしていけばよいのか。「読書権保障協議会」という団体が、どのような制度が望ましいか調査し、提案してくれている。この本自体、弱視の方や高齢者が少しでも読みやすいように、活字を大きくしているところが、その姿勢のひとつの現れであろう。
 幾人もの執筆者が章毎に担当しているので、どこからでもばらばらに読んで差し支えない本だと言えるだろう。そのような困った人たちがいるということなど、考えてもみなかった人にとっても、大きな刺激となるだろう。改めて、私たちが日頃当たり前だと思っていることが、ある人々にとっては辛く苦しいハードルであるということを知る、想像力を養うことの必要さを覚えるものである。
 視覚障害者だけではない。この本には、少しの量ではあるが、聴覚障害者についての記述がある。手話を使えばよい、などと安易に考えることはできない。手話を使う聴覚障害者は一定の割合しかおらず、また、使うにしろ使わないにしろ、日本手話は日本語手話とも違うということからも類推できるように、日本語の理解については十分でない場合が多い。二重否定や比喩的表現が通じなかったり誤解を呼んだりすることはしばしばあるのである。
 このように、単に視覚だけの問題を抱える人のみならば、真のノーマライゼーションを目指す配慮をこの本には感ずる。それがまた、応援したくなる理由の一つでもある。社会生活をこのような制度にしてしまったのは、さしあたり障害をもたない面々であるのだ。責任があると言わなければならないではないか。




Takapan
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