本

『ドルジェル伯爵の舞踏会』

ホンとの本

『ドルジェル伯爵の舞踏会』
レーモン・ラディゲ
東京創元社
\6019+
1976.12.

 先般『肉体の悪魔』に感動した私は、ラディゲのもう一つの代表作も読んでみたいと思うようになった。ティーンエイジャーがどうしてここまで書けるのか、摩訶不思議であったが、もうしばらくその世界を味わわせてもらおうと考えたのである。それで文庫などの方法もあったのだが、比較的安価で出ていた「ラディゲ全集」なるものを仕入れた。全集とは言うが、一冊の厚い本、それだけである。作品の数がそれで収まるのだ。
 レーモン・ラディゲ。1903年6月に生まれ、1923年12月に没している。腸チフスで死んだのだが、享年20。いったい、二十歳の青年に、どんな文学が書けるのか。人生体験もどれほどのものだというのか。
 そのラディゲが遺作として生み出した本作品は、18歳から20歳にかけての執筆だというが、フランス「心理小説」の傑作だと言われている。また、他の作家への影響も多大であり、日本でもそうとうに驚かれ、絶賛されている。どうして大人社会の仕組みや、とくに恋愛にまつわる大人の心理がこれほどまでに描けるのか。
 詩人のコクトーとの交流があり、コクトーのショックたるやただ事ではなく、本作品の出版についても大きく関わっているという。まことに天才とはこういう人のことを言うのだろうか。
 マオはドルジェル伯爵夫人であり、夫の知り合いフランソワと出会う。フランソワはマオへの愛を覚える。その接近の具合については本作品を味わって戴くよりほかないのだが、その心理描写ももちろんのこと、情景やストーリー展開、また表現にしても、翻訳でありながらお見事と言わざるをえないものとなっている。伯爵は無邪気に二人を見つめていたが、どうにもよくない事態を最後には知ることになる。しかし、伯爵という地位がそうさせるのか、実に紳士的であった。
 フランソワの母親も重要な役回りとなっているのだが、二十歳のフランソワに対して母親が37歳。もちろん十代で結婚している。マオはフランソワより年上だが、結婚したのは18歳のとき。そういう文化や時代であったのだろう。恋愛についてはうぶな接触であり、現代からすると、古き良き時代の男女交際を思い起こすようなところがあるが、案外それがドキドキさせるような気もする。とにかく、その時代や暮らしと文化に少しでも親しんで読んでいくと、登場人物の思いや物語の展開など、すっかり没頭してしまうほどに、リアリティを覚える。それは心理が適切に描いてあるからだ。
 物語は様々な人が登場し、入り組んだ出来事を呈するのだが、決して複雑過ぎることはない。一人ひとりが生き生きしている。フランス文学だからどうということもないだろう。若い文学青年でご存じない人は、ぜひ触れてみて戴きたい。いや、大人もこれはぞくぞくするはずだ。多くの訳があるので、文庫でもなんでも入手しやすいもので差し支えないだろうと思う。




Takapan
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