『中学生のための「個性別」超勉強法』

『中学生のための「個性別」超勉強法』
中山治
洋泉社
\1365
2002.3

　新訂版だという。「個性別」は「タイプ」とルビが振ってある。現場の教師ではなく、心理学者だという著者。教育実践論や日本人論を専門としているとのこと。教育法についてもいくつか著書があり、受験や学習、特に勉強法というものについてはやはり得意のようだ。
　なかなか大胆な意見が書かれてある。発行が2002年というだけで、当時批判の対象だったはずのオウム真理教のことが幾度も登場する。教育的問題がそこにあるというのだが、その口調は辛辣である。批判というのでなく、もう屑のように捨て去るような口調であり、ひっかかるものがあった。
　タイトルの「超」も、「超勉強法」に因んでおり、その本のことも、自分のことが野口氏の本に取り上げられていたと得意そうに語っている。
　ウリは、「裏ワザ」というものである。これも、当時のテレビ番組に基づく言葉ではないかと推測される。もちろん、それ以前にも、コンピュータゲームについて言われていたものであるが、多分この本の時代的位置づけからすると、テレビの方だと思う。
　そういうわけで、数年経っただけで時代的な過去の感覚すらもつのであるが、基本的に2002年の教科書大変身の前の時点での勉強法なので、その後の学習内容の削減とそれ故にと敢えて言わせてもらうが学力の危機という状況を踏まえていないことは、今読む私たちは気にしておいてよいだろうと思う。
　本書には、イラストが殆どない。数えるほどあるが、私には、あまりセンスがあるようには見えなかった。全体的に、だらだら説教を垂れているような印象がある。ただ、勉強法のノウハウそのものについては、ゴシックで段下げをして、見易くしているのがいい。とにかくそこだけを拾って読めば、何をどうすればよいか、結論は示してあるからだ。
　答えを見て暗記せよなど、まあ誰もが言うようなことも多く取り混ぜつつも、かなり具体的に、参考書を二冊買って赤ボールペンで……などとやり方を教えてくれるところが目新しいかもしれない。しかし、この本の結論は「個性別」にある。要するに勉強の仕方というのは各個人で違うのであるから、一定の方法が万能ではないというのである。確かにそれは尤もなことである。けれども、それを言ってはおしまい、という気がしないでもない。個性別にいろいろあるのであれば、本書のようなものは役を果たさない。結局人それぞれやり方が違うのだ、ということを幾度も弁解しているのは、逃げであるようにも思う。
　とはいえ、実際的に学習することについて、いいアドバイスもある。注意して読むならば、読者は自分のために役立てることもできるかもしれない。ただ、心理学者としての著者は、いわゆる文科系科目についての勉強法については生き生きと語るが、理数系科目については、トーンが落ちる。特に理科については、アドバイスが他教科よりもぐっと抽象的になる。数学は少し具体的なところもあるが、英語のような生き生きとした学習法のお勧め感が伝わってこない。文系科目の解説は面白いと思うが、理系科目はそうでもない。数学は詳しい部分もあるが、学校の教科書は裏ワザでなく正統的にやれなどと、歯切れも悪い。
　このように、科目によって書きぶりがずいぶん違う。
　何も、塾の悪口を書くというのも、必要なことであるし、私は何も塾を経営しているわけではないので、まあその悪口も当たっているなと思われることも少なくなかった。けれども、東京ではあるが、かなり具体的に塾名を挙げて、Ａ塾で最初学んで後にＢ塾へ乗り換えるのがよい、などと書いてしまったり、どこそこの塾では犯罪が行われたなどと、直接本書とは関係がないようなことまで暴露してしまったりしているのは、やりすぎではないだろうか。一般的に括ってしまうのも無理があるだろうが、これでは殆ど営業妨害であるか、名誉毀損的でもある。他方、いくつかの塾や予備校については、なんと本文に電話番号入りで紹介している。これでは、特定の企業と結びついていると思われても仕方がない。参考書も、いくつかわざわざ企業の実名を挙げて推薦するなどしている。具体的に出してはいけないなどと固いことは言うつもりはないが、こうしたいくつかの点を併せて見てしまうと、何か疑わしいものを感じてしまうのは、私だけだろうか。
　もはや時代は変わっているので、今さらこれを探して読もうとする中学生がいるかどうか分からないが、この手のものは、鵜呑みにしないのが一番。もし、自分が継続的にやってみようと思える方法があれば、いろいろな本からアイディアをもらって、実行してみればよいのだ。
　多くの失敗を恐れないで、それこそ自分探しの旅に出るのだ。自分の学習法というものを探しに。