本

『分ける・詰め込む・塗り分ける』

ホンとの本

『分ける・詰め込む・塗り分ける』
イアン・スチュアート
伊藤文英訳
早川書房
\2100
2008.11

 読んで身につく数学的思考法――サブタイトルに書いてある。原題はどうやら、もっとソフトで、「ケーキを分けるには?――など数学の難問」とかいう感じのようである。その意味では、意訳の邦訳も柔らかいが、ちょっと分かりにくい。
 ケーキのほうがよかったかもしれない。たしかに、そのケーキが少し売りである。ケーキの塊があり、これを二人で切り分ける。正しく二等分せよ、というわけではない。どちらかにも文句が出ないようにこれを分けるにはどうすればよいか、という問題が昔からある。いや、私が聞いたことがあるのは、酒飲みが残った酒を形の違うグラスで二等分するというものだった。二人の場合はこれが簡単である。一方が分けて、もう一方が先に選択するというものだ。ただしこの著者は、そこにも微妙に心理的な影響がはたらくことに触れているが、まあ基本的にそれが公平であるかと思う。ところがこれが、三人で同様に分けるとなると、文句が出ないように分けるということが、二人ほど簡単ではない。もう少し人数が増えるとさらに大変であろうと思われるが、基本的には、三人のやり方を踏襲しているというのが筆者の見解である。
 このように冗談ともつかないような問題がまず掲げられるのであるが、実は単純に数学の問題としても、冗談のようでありながら、真剣に悩んでしまう問題というものがいろいろあるものだ。日本でも、秋山仁先生が、そうした日常に潜む疑問を数学的にどう解決するかということに非常に関心を払っていて、子どもたちにも問題提起をしている。そういう意味で、この本で取り上げられたものは、興味深い疑問が数多い。
 靴ひもはどうかけると短い紐で済むのか。缶詰を箱に詰めるとき最大何個まで詰められるのか。地図の四色問題は解決されたといわれるが、地上の国が月面上にも領土をそれぞれもつとき、同じ国は同じ色だとすると、最少何色必要になるのか。これはよく分かっていないそうだ。シャボン玉がくっつくときの形は計算できるのか。電話機のコードがすぐにからまる理由。そして最後に、イースターの日付の計算ルール。
 いやはや、非常にレベルが高い。日本でよく見られる、「面白数学○○○」の類とは天と地との差である。高度な数式と見識が述べられ、ほとんど数学最先端の雑誌に連載されているものを集めたというふうな印象であるから、まともに全部の理論を一般の人々が十分理解しているとは言い難いのではないかと思われる。私もよく分からない。いや、それとも、こうした高度な文化をむしろ楽しい読み物として受け容れるような地盤が、イギリスにはあるというのだろうか。
 サブタイトル通り、身につくのかどうかは不明だが、これを面白いと思う人は少なからずいるはずだ。考えることを愉しむことのできる人は、一日一テーマずつ読んでいくことによって、その日その日を楽しく過ごすことができそうである。
 案外、ビジネスにしろ芸術にしろ、あるいは職人にしろ、新しいものを創造開発していこうとする人にとっては、潜在的なヒントを生むような効果があるかもしれない、という気がする。思考法とは、そういうものなのだ。




Takapan
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