『カンニング少女』
黒田研二
文藝春秋
\1500
2006.4
いつも漏らすが、小説の紹介は難しい。ほどよく語れば読者の意欲を誘うが、楽しみをばらしては読む気をなくす。そのバランスが絶妙な人こそ、書評などというお仕事ができるのであろうと思う。
姉の死の秘密を探るために、内気な少女が、名門私立大学受験を決意する。だが、どうしてもその実力がない。秀才の友だちがそのために手を貸してくれ、さらにどこか行きずり的に、男子高校生もそのために大活躍――そう、それがカンニングである。
カンニングは悪である。だのに、小説や映画で、それは時折やってよいことのように扱われることがある。カンニングが正義に変わるわけてはないのであるが、カンニングを成功させた主人公たちに喝采を贈るのである。
本当にこんなことが可能なの?と思わせながらも、読み手をぐんぐん引き込んでいく面白さは十分備えている。
他方、事件の鍵を握る大学の助手の性格もよく描けている。その助手に対して、教授が漏らす。
「君のやっていることは間違っていないと思う。だけど、君みたいに強い人間ばかりでこの世界は構成されているわけじゃない」
この言葉が、胸に残った。
因みに、タイトルの「カンニング」だが、口語の中で「チャーミング」と同義に使われる語だ、ということに触れておいたら、ネタバレとなってしまうだろうか。