本

『驚天動地のクラシック』

ホンとの本

『驚天動地のクラシック』
三枝成彰
キノブックス
\1700+
2014.12.

 クラシック音楽の入門書も多い。なんとか親しみをもってもらおうと苦慮しているように見える。古典であり気取っており、近寄れないという思い込みに若い人々が支配されているとすれば、クラシック界にとってはいささか辛い。経済的に成り立たなくなってくるのだ。いくら芸術とは言っても、文楽や能楽など、行政の補助がなければ運営できない伝統芸能があるように見受けられるが、クラシック音楽とて、そうなりゆく可能性は大いにある。
 だが、あまりにくだけすぎて音楽家のゴシップや裏話に終始するのも、音楽にまで届かない故に厳しいものである。幾多の人が工夫を凝らし、関心を向けてもらおうとしているかのようである。
 欧米ではそうでもないのかもしれない。ある種伝統が染み渡っているのかもしれない。ではこの日本ではどうか。
 たしかにクラシック音楽は西洋のものである。だが、著者は言う。今や世界では、西洋音楽を耳にしながら育つ人々の国が殆どであって、世界中どこでも、たとえばモーツァルトの音楽の美しさは認めている。各国の文化背景があるにも拘らず、音楽は世界普遍のものとなっているのではないか、これは不思議なことである、と。
 また、そもそも「クラシック」という言葉は、「古典」という意味はせいぜい三番目にくるものであって、古いものだと決めつける必要はないのだ、というあたりから本を始めているので、読者はぐいと惹き込まれる。
 マスコミにも露出の比較的多い著者は、語りもうまく、司会業もこなしたことがある。音楽の紹介にはもってこいだ。一作曲家として、自分の音楽だけではなく、そもそもクラシック音楽全般を楽しく紹介することに、実に適している。
 実際、この本は面白い。
 作曲家の逸話も盛り込んでいるが、できるだけ簡潔に教え、また、著者自身のお薦めの曲もピックアップしており、これが通常紹介される代表曲とは限らないところがまた粋である。ベートーヴェンが、旧約聖書から新約聖書に変わったくらいの重要なポイントを占める作曲家であったこと、モーツァルトが苦手な分野なく両刀を使えた天才であったこと、そんな評価は、読後に強く印象に残る。
 最後には、コンピュータを使う現代の音楽につながり、初音ミクなどのボーカロイドについても言及されている。著者自身、かつては調整を崩す音楽にも浸っていた時期があるように、音楽的に自由な立場をもっている。現代、デスクトップでつくり上げる音楽の動向にもちゃんと理解を示しており、若い人も素直に読めるのではないだろうか。
 さらに、この本は、インターネットのサイトを探すと、著者自身がこの本の要点をおしゃべりしている声を聴くことができる。もちろん本を読み上げているわけではないが、聴くと、重要なところが的確に語られている。その語り口も楽しく、またこういうサービスはなかなかのものである。本書ではいくら紹介しても届かない、実際の音をそこで鳴らしてくれるなどすると、なんて親切な本であり企画なのだろう、とうれしくなる。
 早速、紹介される中のひとつ、ベルリオーズの「エリア」をYouTubeで開いてみた(著者もYouTubeの良さを力説している)。いままた、ひとつ豊かさを与えられたような気がした。




Takapan
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