本

『NHK中学生・高校生の生活と意識調査』

ホンとの本

『NHK中学生・高校生の生活と意識調査』
NHK放送分か研究所編
NHK出版
\1,700
2003.6

 いかにも堅そうなタイトルだし、天下のNHKときている。それにこのような調査が面白く、ためになったことはない――少しでも事情に通じている人はきっとそう予断する。私もまた然り。
 2002年の夏、全国の中高生1800人に行った調査をもとにまとめてできたのがこの書である。その全データが公表され、数字の表として掲載されている。さぞかしつまらない本だろう、と思いきや、実にソフトな肌触りの感じられる、優れものなのであった。
 面白いのは、まずコラム。資料に疲れたころにまんべんなく載せられており、まずはヤマンバやガングロの話。勉強をする子のほうが小遣いが少ないという興味深いデータとその見方についてもあり、性的体験から、少なくなった勉強時間の話、最後には父親の立場についてなど、本編で語るのはもったいないようなこぼれ話が綴られている。
 それから興味深いのはやはりゲストの対談。タレントからは、伊集院光、鈴木光司、アグネス・チャンが登場し、別々の場で語っている。いずれも、ふだんから青少年や子育てについて発言をし、また自ら強く実践しているような人々である。けっして、ワイドショーのコメンテーターではなく、深い思い入れや実体験の伴う、熱い言葉が満載である。そのあたりは、さすがNHKと言わなければなるまい。しかも、今の若者を否定するようなありふれたコメントとは違い、あり方としてのよい点を肯定し、励ますような形で語られている点がうれしい。何かと、自分の育った時代と比べて昔こそがよかったと語る政治家や評論家が悲しく目立つ中で、未来への希望を抱く眼差しをフェアに提供してくれるこのような企画は、実はたいへんありがたい。
 たしかに、むやみにおべっかを使う必要はない。若者に媚びる必要はない。だが、何もかも否定されるのがすべてなのではない。鈴木光司が言っているように、今は家族が崩壊している、などと訳知り顔に語るのは奇妙である。それは、昔は理想が成立していたかのように勘違いをしている見方なのである。これからの時代がどのように進展していくのかは、誰にも分からない。親が子どもの足元の石を拾い除けることができる場合とできない場合とがある。払い除けた方がよい場合と悪い場合とがある。だがもっと大きな危険について疎かでありつつ、足元の石にこだわるような親は失格であろう。どんな見落としがあるのだろうか。ともすれば冷たい数字とも言われ、その数字の背後にある人間性を無視していると悪口を叩かれる統計の技法であるが、私たち読者こそが、その数字という現象を惹起している物自体を、要請という形でも理念という形でもよいから、実現へ抱く希望として捉えていかなければならないのである。
 アンケートというものの数字について、実は私はあまり信用をおいていない。どのようにも答えられたりするし、誘導的な質問もありうる。さらにそのアンケート実施の時点で世の中の空気がどうであったか、どんな事件が起こっていたかなどにより、十分結果は左右されるものである。また、どう答えてよいか分からない場合も多々あり、思う回答欄がないゆえに、微妙にずれた選択肢を答えることもあるかもしれない。果たして1800人でよいのかという実感や、統計結果についての冷静な分析力がないままに数字を見て思いこむ危険性など、弊害も大いにありうる。
 しかしまた、アンケートに出たことを無闇に否定するのも問題である。自分の頭の中ではこうなるはずだという思いこみが、どうしても現実でなければならないと錯綜した感情に包まれると、人間は恐ろしいことをもしでかる危険性がある。アンケートという形で現れた、他人の意見の数々は、実はたいへん有意義な刺激となる。ただの数字で結論づけることなく、数字の背後にある意味にも目を移してみることができたらすばらしいだろう、と思う。




Takapan
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