本

『中学生から、あなたへの言葉。』

ホンとの本

『中学生から、あなたへの言葉。』
少年の主張全国大会編
サンマーク出版
\1,300
2003.9

 初めて、一冊の本になったという。1979年の国際児童年を記念して、「少年の主張大会」が始まった。第一回は、福岡市民会館で開催されている。そのときの16名の中学生の発表に、この事業を継続しようという声が高まり、以後毎年開催されることとなった。  マスコミは、中学生のごく一部の犯罪を、さも中学生全体のことのように取り上げる。一種の情報操作である。学校の教師や警官の犯罪を大げさに取り上げ、社会全体が狂っているかのように印象づけるのと同様である。しかし、できればこの少年の主張のような行事をもっと大々的に報じてほしいと思う。
 たしかに、こういう種類の主張について、うさんくさいと称する人はいる。よい子たちばかりで飾っても仕方がない、としたり顔で言う。私も正直、そのような予断はもっていた。
 だが、この本にある声は、決して嘘ではない。すべて、生の中学生の言葉なのだ。しかも、体験を綴ったものである。その体験というのも、優等生が高みの見物的に評論しているのではない。自分の犯した過ちや、失敗から、立ち上がるための希望の光を見いだそうとしている姿なのである。その点が、マスコミの情報操作とは訳が違う。自分の痛みを抱きつつ、それを乗り越えていくという、どこか弁証法的な歩みが、ここにはある。
 本は、テーマ毎に編集されている。家族・友だちと学校・いのち・社会・夢と未来とに分かれる。不幸な生い立ちであるがゆえに、感動を呼ぶというものもある。だがそれがすべてではない。重い病気や障害の子の声もある。だがやはりそれがすべてではない。いじめに遭った子もいるが、それだけではない。災害の中で地獄を見た子もいる。しかしやはり、特別な環境にあったがゆえによい主張であるというわけではないのである。なにげない学校でのひとこまや、進学の選択に悩む話、ケータイは不要なのではないかという考え、パソコンにはまって感じたこと、給食の残飯をもったいないと思うゆえに始めた動き、方言への誇りなど、日常どこにでもあるような、そして私たちが見落としている、あるいは、見落とそうと意図して見ないふりをしている問題、開き直っている事柄に、正面から光を当てる中学生たちの姿がここにある。
 もちろん、これは世の中をまだ十分に知らない中学生の、ある意味で戯言である。そう批判する向きもあろう。まだよう分からんからこんなこと言うとんのや、と一蹴することもできる。それは簡単だ。まだ子どもだからこんなことが言える、などとうそぶくのも自由である。だが、それが大人なのか。そんな顔をして、逃げているだけではないのか。
 私たちは、これを教科書としてもよい。大人たちは、ここに書いてあることから学ぶべきである。もしこの世の中をよくするにはどうすればよいかと真剣に考えるなら、何のことはない、この本にあることを実行すればよいのである。私は単純に、そう思う。  それは、もちろん、私もである。私がこのサイトで述べていることに重なることもずいぶんあるような気がしたが、それでも彼らの体験からくる言葉には、圧倒され続けであった。
 そして、このような大会を催し、あるいはこの本を編集し、審査する諸団体や個人の方々に申し上げたい。あなたたちこそ、この本にある中学生の言葉を実行に移すための先頭に立っている責任がある、と。この本を読み、「いい映画を見た」と、それからこの本を企画製作し、「いい映画をプロデュースできた」という思いで終わったならば、これほど無責任な悪はないのだ、とまで言ってみたい。
 もちろん私としても、ささやかながら、この中学生たちの言葉を一つの模範としつつ歩みたいと願う一人である。




Takapan
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