本

『すぐわかる キリスト教絵画の見かた』

ホンとの本

『すぐわかる キリスト教絵画の見かた』
千足伸行監修
東京美術
\2100
2005.9

 魂の救いをもたらすような働きは、期待できないかもしれないし、そのような意図で編集されているのではないだろう。だが、たしかに聖書について、様々な知識を与えてくれる。それが、一つの角度からの切り込みによって深くなされていくものであることを、この本は教えてくれる。
 図像学というものがあり、それは、絵の中に描かれた物や、その配置などに、どんな意味があるのかについての知識を与えてくれる。この本にも、幾分取り入れられていると思うが、それが目的であるというのでもなさそうだ。
 元来、聖書は信徒すべてに行き渡ったものではないし、そもそも文字の読み書きができるという立場にある人が多かったのではないだろう。その時代、キリストの福音はどのように伝えられたか。教会の説教にもそれはあるだろうが、美術的な背景はかなり大きいものと思われる。つまり、絵で示された聖書物語を人々は理解し、あるいはそこから魂の救いを得たというわけである。いや、そもそも絵を見れば、何が言いたいのかが今より遥かに明確に伝わった、と見なすのが当然であるだろうと思う。
 私たちの時代、むしろ聖書そのものの方が語られ、教えられ、逆に絵がもつ訴える力というものが蔑ろにされており、誰もそれを理解できなくなってきている。
 実に多くの、聖書内外の知識を与えてくれる本である。聖書に直接載っていなくても、とくにカトリック教会が伝統としてもたらしてくれた、聖人伝説なりマリアにまつわるエピソードなり、それらが絵画の中でどのような意味をもって、どのように伝えられてきたか、が手に取るように分かる。
 必ずしも福音を目的として編集された本ではないが、文字ばかりの聖書解説書を開くよりは、よほど感覚的にすんなりと、聖書の内容が理解されるかもしれない。それくらい、実に詳しい解説が、飽きない形で施されているということだ。




Takapan
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