本

『子どもに語る 中国の昔話』

ホンとの本

『子どもに語る 中国の昔話』
松瀬七織訳
湯沢朱実再話
こぐま社
\1680
2009.3

 絵本としてでなく、物語として読み聞かせるために編集されたものである。短い話がたくさん掲載されているのだが、巻末に、一つ一つの話について、聞かせるポイントや相応しい対象学年についての意見が書かれている。親切な本である。
 本文も読みやすい。短い話が多い。だが、ひとつひとつの物語には深い味わいがある。それを味わおうと思ったら、一言一言をも疎かにしないで読んでいかなければならない。やはり子どもが、ひとつひとつの言葉を噛みしめて聞くので適役であろう。
 どこかで聞いたような物語もある。日本の昔話との共通点を見出すのも、難しくないだろう。へえ、という思いがずっとつきまとうことだろう。そのことについても、最後のところで解説が施してあるので安心する。
 中国と一口に言っても、それは9割以上を占める漢民族の物語であることを、本の最初で断っている。この辺りも、配慮が行き届いている。そういう意味で、細かな心が隅々まで通っている本である。ちょっと高価かなと思える価格も、納得するものである。
 奇想天外なお話から、庶民のささやかな知恵、願望のようなものも見受けられる。頓知ものも面白いし、由来譚とでもいうのか、もののいわれを説明するものもある。私は個人的に、閻魔大王を茶化したのが面白かった。また、最後の大工の話も思わず唸ってしまった。こういう才覚が自分にあったらなあ、と溜息をついたというわけである。
 このように、大人が読んでも十分楽しい。まして、子どもたちがこれを聞いているときの表情や眼差しを想像すると、わくわくする。
 これは楽しい。そして、なかなかないタイプの本である。大人も存分にお楽しみ戴きたい。




Takapan
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