本

『ちゃんと育てればストレスに強くなる』

ホンとの本

『ちゃんと育てればストレスに強くなる』
松岡素子・松岡洋一
日本評論社
\1,400
2003.5

 ストレスという外来語は、2003年6月20日の新聞で、言葉のトップに躍り出た。意味がよく知られている語の第1位だそうである。誰もが使う言葉だという点ではまさにそうだろう。しかし、それで意味が解っているのかどうか、私は疑問に思う。ストレス解消、と言ってタバコの煙を人に吹きかける人がいる。私はそれはストレスとは関係がないと思う。体のいい言い訳に使われているとなると、ストレスの語が気の毒である。
 ストレスとは緊張であり、心に感じる「ひずみ」のことである。ひずみが強いとへこんでしまう。ではひずみはない方がよいのか。適度なひずみは、よい心のあり方をもたらすともいう。何もかもがうまくゆく、ひずみのない人生の方が不可能であるのだから。
 臨床心理士として、現場での経験を重ねつつ、あたたかく包むような眼差しと手で、子どもたちを愛している姿が、この本のあちこちからうかがえる。子どもたちを愛するとは、その親を愛すること。親が子どもを愛するようになれば、子どもたちは愛されることになる。――親が子を愛するのは当たり前のことだ、と思われるかもしれない。もちろん愛さないはずはない。だが、どう愛してよいか、分からない親も多い。いや、すべての親がそうだと意ってい。著者は、「ちゃんと育てる」という題の言葉の中に、「子育てがどんなに大変でも、子育てから『降りない、逃げない』で欲しいという私たちの願い」をこめている。自分が幸せになるために人生を生きることができるようになるために。またそのためには、ストレスに強いということが大切だと感じているから、この本が生まれた。
 親が、昔と比べて楽な生活の仕組みに慣れてしまい、子育ての煩わしさを回避するようになっているかもしれない、と著者は言う。その結果、子どもたちに媚びるようなことが起こり、子どもたちに適度なストレスを与えるチャンスを逸している、と。適度なストレス……それは、子どもの心を歪ませることなく、愛情を伝えながら、子どもには生きるためにすべてが楽でないこと、思い通りにならないことを体験させて成長させることだと考えられている。まったく、そうだ。
 そして、親が親自身のストレスを上手に解消していく秘密も、この本は用意している。必要以上に抱え込まないで、「出す」ことがそれである。詳しいことをお知りになりたい方は、この本に触れて下さるように。
 つくづく、自分の世代、あるいは小中学生の親の世代が、教育的には鍛えられたわりには、人格的に問題を多く抱えているような気がしてならない。かつて危険な14歳が指摘され、引きこもりが取りざたされるのも、その親の世代に何か理由の一つが隠されているということはないだろうか。この本はそうした理論を扱うものではない。あくまでも人間愛に包まれた、癒しの空気が、読む人に染み渡っていくようである。




Takapan
ホンとの本にもどります たかぱんワイドのトップページにもどります