本

『世界一やさしい! 細胞図鑑』

ホンとの本

『世界一やさしい! 細胞図鑑』
鈴川茂
りゃんよマンガ
新星出版社
\1200+
2019.11.

 アニメ「はたらく細胞」が、細胞などをキャラクター化したのみならず、実に正確にその機能を発揮してストーリー仕立てにしていたのには驚いた。よく分かるのである。それが2018年のこと。そのアニメ製作に関わったのがこの予備校の講師。そこでアニメのキャラを活かして細胞の解説、といきたいところだが、恐らく著作権やら何やらの関係で、そのキャラは使えないのであろう、コミックエッセイ張りのちょっとダサいキャラを並べて、改めて細胞の機能を解説する本をここに提供してくれた。
 世界一やさしいかどうかは分からないが、親切であり分かりやすいのは間違いない。細胞とは何かに始まり、「はたらく細胞」でもおなじみの血液細胞を詳しく解説した後、脳と神経、骨や筋肉、そして内臓、生殖器、感覚器と一つひとつ取り上げた最後は、iPS細胞など細心の研究分野が紹介されていく。
 ストーリーが一応あり、セレナという20代の女性がメインを務める。酒が好きで暴飲暴食をしている。そこへ、そんなことではいけませんよ、と突然ニューロンなる男性が現れ、細胞について説明を施していくという仕掛けである。
 すべてイラストで示されており、各細胞の部分名や機能などが一目で分かるように配置されると、けっこう教科書チックな書き方でひととおりの説明も加えられる。さらに、細胞の細かな区別についも触れられており、それぞれがキャラクター化されているという具合である。少し外れる話題については章毎にコラムが設けられ、これもまた興味深い。読ませること、聞かせることにかけては、さすが予備校の講師である。つかみ所を心得ていらっしゃる。それでいて、おふざけに走らず、教えるべきポイントはきちんと語られていて、お遊びがあるとすれば、細胞の詳細についての説明にあたって4コママンガがあることくらいだろうか。
 ところがこの4コママンガが、私に言わせればちょっとよくない。確かに内容や機能、あるいはそれをちょっとつついたような形でギャグが噛ませてあるというのは、一息つけるし、案外そこから深い理解が可能になったりもするものである。やくみつる氏などは、そのような形で実に鋭い4コママンガを用意してくれる。それと比較するのは酷であるが、本書における4コママンガは、何か面白い要素を入れているのであるが、それが細胞の理解にどれほど役に立つのか、うまいこと細胞の理解を助けるようなツッコミどころを踏まえて念入りに考えられているのか、ちょっと疑問なのだ。内容に触れかけているのは分かるのだが、そのセンスが私には分からない。ゲラゲラ笑えるものでもないし、その内容理解を助けるかどうかも怪しいし、正直このマンガの存在意義が分からない。いっそどちらかに徹してもらえればよかったのだが、中途半端な印象を与えるばかりなのである。
 とはいえ、一読して内容が頭に入ってくるという点では大したものである。
 私は、最後のほうで、実は相当にハラハラしながら目を開かれるような思いで読んだ箇所がある。引用させて戴こう。(太字のところを【 】で表す)「正常な細胞は、そのときの状況に応じて増えたり、増えるのをやめたりしている。たとえば皮膚の細胞は、ケガをすると元どおりになるまで増殖するが、傷が治ればそれ以上増えることをやめる。これはからだからの信号によってコントロールされている。」「ところが! 正常な細胞の遺伝子になんらかの原因によって傷がついてしまうと、ひどい悪影響をおよぼす。できそこないの細胞ができてしまう。これが【がん細胞】の正体。がん細胞は、ほかの正常な組織が摂取しようとする栄養をどんどん奪ってしまい、からだを衰弱させる恐ろしい存在なのだが、もともとは正常な細胞だったわけだ。通常はリンパ球などによって排除されるが、場合に四手は、【がん】を引き起こしてしまう。」「がん細胞は、からだからの信号にしたがう能力がなく、信号を無視して勝手に増殖してしまう。やがて何年もかけて数を増やし、がん細胞はがん(【悪性腫瘍】)になる。正常な細胞が増殖しすぎてできた【良性腫瘍】の場合は、からだのあちこちに広がったり、ほかの正常な組織から栄養を奪ったりすることもない。でも悪性腫瘍の場合は、組織から浸み出るように広がったり、血液やリンパ液にのって離れた組織に転移したりする。その結果、からだは衰弱し、最悪の場合、死に至ることになる。」さて、私はここに何を見たか。それはよろしかったら皆さまが考えて戴きたい。というより、信仰をお持ちの方が、それぞれに何かをきっと連想したのではないかと思いたい。きっと私の思いつきと重なる部分があることだろう。




Takapan
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