本

『文系のための東大の先生が教える 重力』

ホンとの本

『文系のための東大の先生が教える 重力』
松尾泰監修
NEWTON PRESS
\1500+
2024.6.

 私は、こういう話が好きである。中3のとき、受験勉強に厭きたら、宇宙の本ばかり読んでいた。素粒子のスピンなどという話を聞いてときめく中三生は、そんなにいないだろうと思う。その動機はちゃんとあったのだが、そちらに話を進めるのは避ける。
 もちろん、その後も物理学は進展する。宇宙論が好きだったので、ブラックホールはもちろんのこと、ビッグバン理論なども、それは何だという関心は向かったし、超ひも理論が出たときには、興味だけはもった。だが、私の数学的能力はそこには追いつけなかった。そのため、入門書を開いてイメージだけを膨らませたり、『Newton』誌をめくってみたりした。それなりに視覚的に説明されていたが、もうひとつしっくりこなかった。
 その私が、偶々この本に出会ったことで、ちょっと宣伝してみたい。私が出会ったこの手の本の中で、これは最も分かりやすい本である、と。
 わくわくするのだ。実にうまく書かれてあるし、何よりもその説明が簡潔で的を射ている。どうすれば一般の読者が分かりやすいかということを、とことん知っての編集であると思う。
 ともすれば、知者の側としては、これだけ分かりやすく説明してやっているんだ、という意識が、この手の本には見え隠れするのであるが、本書は、教育的に優れていると見た。読者をうまく導くのはもちろんのこと、その本質的な説明について、ぐいぐいと引っ張っていってくれるのだ。
 宇宙論とか、素粒子論とかいうことではない。テーマは「重力」である。中学生の理科の授業で教える内容である。だが、そこに少し厚みを加えよう、という程度の動機で開いた私は、公開した。それどころではなく、重力や物理の理論が、ぐぐっと身近になってしまったのだ。
 27歳の文系サラリーマンと物理学の松尾泰先生との対話が全編を引っ張る。イラストがちょくちょく紛れ込むのと、重要な用語は色つきで大きくなったり、大切なテーゼは色つきのアンダーラインが施されていたりするくらいの地味な編集なのであるが、内容の進展も、先の予告も、話の進め方としても大いに参考になる。私が理想としている授業展開を見ているようだったのだ。
 この27歳、中学で学んだことさえ危ういところがあるが、それがたぶんいいアシストを果たしている。読者も親しみを持てるのではないか。あるいは、これよりは知っているぞ、と優越感を与えるのではないか、とも思える。
 さて、すべての物体は引き合っている、というところから「万有引力」について、誤解のないように定めてイエス・キリスト、それが宇宙の星の探究に訳だったことが明らかにされる。
 それが次に、時空のゆがみの話に入る。もちろん視覚的には表現できないのだが、それをよくあるような編み目のイメージで伝えるのは、それはそれでよいのだろうと思う。
 ここから一般相対性理論については、半世紀前からこの程度の解説は出ていた。だが、そこから次に重力波の説明となると、以前はそんなに見られなかったと思う。そこから初めて、ブラックホールの理解へと進むことができるようになるのだ。
 この「重力」は、中核の理科では、まずそれを書け、というほどに基本的な概念なのだが、これを考察することによって、宇宙の構造や特異点など、とんでもないスケールで世界が拡がってゆく。3時間目のタイトルは、「重力は、現代物理学最大の謎」だとしている。ここでは、ダークマターの考えの生まれや、四つの力の話、そして重力が実は弱いと言うことが、実に分かりやすく例示されている。
 四つの力の統一理論への眼差しを読者に与えた後、本書はいよいよ「超ひも理論」に突入する。私が注目するのは、それぞれの理解のために、必要な段階をきちんと経ていることである。一つひとつのことを例示を交えて調えていった後、それらの理解を踏まえて、ついにこの「超ひも理論」にまで行き着くのである。そして、私がこれまで垣間見たこの手の入門書の中でも、随一分かりやすいものだったと言っておく。
 それは、話の手順が整っているからだ。まずこのことを理解し、受け容れ、だからつぎのこのことが理解できる、というように、連鎖が続く中で、ついてにこの宇宙物理学の最高峰近くにまで、とにもかくにも連れてきてもらえたのである。
 そして、この種類の本にも軽視されることの多かったもの、そう、索引が、本書にはちゃんと付けられている。実にあたたかな編集であるし、読者本位の構成になっていると思う。いろいろシリーズもあるようだが、こうした編集方針については、もっと宣伝して然るべきだと思う。もったいないことである。




Takapan
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