本

『舞台裏おもて』

ホンとの本

『舞台裏おもて』
山田庄一・吉田簑助・大藏彌太郎監修
岩田アキラ写真
マール社
\1890
2006.4.

 副題に「制作現場をのぞいてみよう!」とあり、表紙には小さなシルエットがいくつか散らされています。「歌舞伎」「文楽」「能」「狂言」の文字が薄いグレーで配置されています。
 そうです。こうした日本の伝統文化の裏方を紹介しようという本なのです。
 サイズは、小さな、正方形に近い形。CDケースを一回り大きくしたほどの大きさであるが、厚みが違う。2.5cmほどある。250頁あるから、紙質がよいことも分かる。すべてがカラーであり、これで伝統文化について深みが分かるとなると、お買い得と言ってよい。本全体に目を通すのに、多大な時間を要するものでもないが、味わうと奥深い。文化とはそういうものかもしれない。
 これらの伝統芸能に無知な私のような者でも、一読しただけで、ぐっとそれらとの距離が縮まったような気がする。
 そもそも、カトリック神戸中央教会で2004年に上演された、イエス・キリストの生涯と題する文楽のビデオが、YouTubeで流されており、これを見て私は、文楽はいいものだと思うようになった。クリスチャンの露のききょうさんがこの企画に関わって出演もしているわけだが、よくぞこういうことが実現したものだと驚く。そういう点では、カトリックの開かれた力というものは大きく、強いと敬服する。
 何故人形浄瑠璃のことを「文楽」というようになったのか。こんな簡単なことでさえ、門外漢には分からない。歌舞伎の「十八番」は日常語にも使われているが、その十八の演目とは何であるのか。こうした、歴史的なことから、現在の上演に関する様々な工夫がこれほどまでに明らかにされているのを見るのは、実にうれしい。その文楽の人形の仕組みから、その手足を人形遣いが個人で所有していること、役ごとに色が塗り替えられることなど、初めて知ることが多々紹介されている。能や狂言の装束の着付けが一段落ごとに写真で示されていたり、能面の彫り方が図解されていたり、女の面の魅力がその目の穴の形にあることが説明されたりしていると、素人でもなんだか分かったような気がして、小躍りしたくなる。
 小道具・大道具の作り方やその工夫なども、惜しげもなく段取りよく紹介されている。訳あって、門外不出の狐面の仕組みだけは明かされていないが、そういうのがもちろんあってよい。いや、それがすべてだと思っていたから、この本を出すという気前の良さに、ほとほと感心する。
 今の時代、こういう動きが必要なのかもしれない。何もかもオープンにすればよい、というわけでもないが、秘密裏にしておくだけが文化でもないだろう。どちらの要素も必要なのだ。この本は、オープンにしすぎかもしれない。しかし、これにより興味を抱く人は、格段に増えるはずだ。一度見に行こうか、という気持ちにさえさせられる。
 そうだ。教会が聖書について伝えるのも、こういうことなのだ。だから、昨今の、キリスト教や聖書について人が知りたいというニーズと、それに応えるかのような一般のムック的出版物の連続も、歓迎すべきことに違いないのだ。
 この本は、もっとメジャーになるように仕向けていいと思う。確実に、伝統芸能との距離を近くする。「にほんごであそぼ」が、狂言と子どもとの距離を縮めたのは確かだが、この本は、大人たちをそういう世界と結びつけるために大いに力となるだろう。これは、読ませる。地味なままにしておくのはもったいない。




Takapan
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