本

『中学生にもわかる仏教』

ホンとの本

『中学生にもわかる仏教』
小暮満寿雄
PHP研究所
\1470
2004.6

 タイトルは人目を惹く。そして開く。私の印象では、「中学生には分からない」。だからこれは、私が開く前から睨んだ通り、大人が分かり易い本を求めるときにぴったりくる本である。
 とはいえ、これは系統だった入門書ではない。もっと仏教について、一般的なこと、系統だった説明を聞きたいという場合には、不適切であろう。
 著者は文筆も営むが、画家でもある。まるで絵に描く事柄を言葉に直しているかのように、その言葉はいささか感覚的で、体験的である。著者の視点に重なって読むことができたら分かり易いのだろうが、そうでなければ何を言っているの、ということになりかねない。芸術とはしばしばそのようなものであろう。
 そもそも最初のほうが、中学生には分かりにくい。本当に分からせたかったら、中学生の請いや生活環境の言葉を用いるとか、専門用語に脚注を入れて説明するとかしなければなるまい。だから、「中学生にもわかる」というのは、アイキャッチのようなものなのだと理解せざるをえなくなる。以前、「サルでもわかる」云々という番組や本があった。なるほど、本当にサルは分かるはずがないわけである。
 活字が大きく、ふりがなも随所に振っている点が、「中学生にもわかる」という意味であるのかもしれない。
 ブッダの生涯を分断的に紹介したり、日本の仏教についての解説が多く為されたりと、よく説明されているとは思う。わずかなイラストが適切に機能しているとも思う。だが、中学生のためには絵が少なすぎた。
 著者ご本人の信仰の中から、この本は生まれた。だから衒学的な部分は見当たらない。一人の信仰者の体験として読んでいく方法もある。すると、この著者その人のことがだんだん分かってくる。仏教そのものでなく、著者のことが分かってくるのが実情である。
 十牛図の説明が懐かしかった。それの講義を聴いたことがある。この本には、可愛いイラストとしてそれが紹介されていた。これはちょっと、中学生らしかった。
 本の後半の説明は、こなれた、やわらかく分かり易いものだった。本の最初が、とっかかりにくかった。難しい言葉の羅列があり、説明もまわりくどかったりするのだ。想像するに、ここは最初に書いた原稿ではないか。どうも硬い。後に全体的に一度書き終わってから、再び最初のところの原稿を書いたなら、もっととっかかりやすい冒頭になりえたかもしれない。
 仏教についての説明は、決して上手ではない。ただ、自分の信仰をなんとかして他人に知ってもらいたいという気概は強く感じられる。ハートで伝えるのが宗教なら、それで十分魅力的である。――となれば、私だって、一冊の本が書けるかもしれない、ということである。一信徒として、キリスト教を伝えることは不可能ではない。ネットでの記述も、それを意識していないわけではないのだ。




Takapan
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