本

『必ず役立つ 吹奏楽ハンドブック コンクール編』

ホンとの本

『必ず役立つ 吹奏楽ハンドブック コンクール編』
丸谷明夫監修
ヤマハミュージックメディア
\1575
2011.12.

 シリーズのように吹奏楽について教えてくれる本も出ているが、今回は、アンサンブル全体をリードする。ずばり、コンクールを目標として、それに向けてのステップとアドバイスである。これは実に効果的で、的確な指摘である。学内のブラスバンドの頭上には常にこれが輝いている。基本的に、まさにそのコンクールのために、活動がなされる。その時に、何をどう指導すればよいのか。いや、メンバー一人一人は、全体の中で何をすればよいのか、自分の技術をどう高めればよいのか。確かに、楽器そのものの腕を上げるということは必要である。しかし、それだけではない。そこがアンサンブルだ。
 監修者は、高校の実際の吹奏楽部顧問である。現場での経験をふんだんに盛り込んだこの本は、まさに現場の視線で動いていく。よく試みられる曲のスコアを一部紹介して、ここをこのように、ここがこうなりやすいので注意する、といったアドバイスは、なかなかこうした本では見ないものではなかろうか。また、そのときにバンドとしてこのような点に気をつけるとよいとか、こういう練習をするとよいとか、もう現場で指揮者が部員に指導することひとつひとつを、惜しげもなく晒してくれる。
 部員にとりうれしいのは、各パート別のアドバイスもあることだ。それも、高校生目線とでもいうのか、実にうれしい持ち上げ方をしてくれる。たとえば、クラリネットは女優だ、とか、ホルンはラーメンの麺だ、とかいう面白い表現もある。その詳しい意味はどうぞ本書でお確かめください。パーカッションは指揮者と同じ姿勢が大切だ、というのもなるほどと思う。その他、このパート別の頁でも、実に細かい点まで、様々な現場で出会う事態に応じてアドバイスがなされている。そのすべてが実用的なのだ。これは例えば、ブラスバンドの新米指導者にとっては涙が出るほどにうれしい一冊ではないだろうか。こんなに安価ですべてが詰まっている本というのも珍しい。そしてこれらは、多くの専門の協力者により書かれているので、まさにその楽器のプロの気づきがこめられている。もう宝物のような言葉のように私には見える。
 著者は、スタンダードの重要性を強調している。変わったもので人の耳を惹くということはあるだろうが、バンドの実力はやはりスタンダードの中で培われる。これは他の分野でも味わいたい教えでもある。基本をおろそかにしてはいけないことが、ずんと響いてくる。
 楽器に拠らない練習の大切さや、スコアの読み方など、実際の活動の中で出会う様々な問題や知恵について、これだけの薄い本の中に盛り込まれているのは殆ど奇蹟に近いような思いさえする。ブラスの指導者やパートリーダーは、買ってきっと損はない。そんなふうに素人の私が口にするのはおかしいかもしれないが、やっぱり良い本だと思う。




Takapan
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