本

『聖書を読みとく』

ホンとの本

『聖書を読みとく』
石田友雄
草思社
\1680
2004.11

 バッハの森という名の音楽同好会のような私塾を開く。そこで、バッハの好きな人々が集まった中で、その音楽を理解するには聖書の理解が欠かせないことを知らせる。こうして著者は、いわば普通の日本人、つまり聖書を実際に紐解いたことのない日本人を対象に、聖書の考え方をどう説明すればよいかという問題に立ち向かうことになる。
 副題に「天地創造からバベルの塔まで」とあるように、解説は旧約聖書のそのところでプツリと終わる。
 ことさらに信仰を増そうという意図で記されたものではない。ヘブライ大学に留学して、その後筑波大学で副学長にまで昇った著者である。聖書になんとか親しみ、聖書を信じるようになってほしいという気持ちは当然ある。が、それは抑えられる。
 むしろ、平均的な日本人が疑問を抱く聖書の箇所になんとか答えようとすることで、著者自身教えられ。気が付いたことが多いらしい。
 強烈な読み込みがあるかもしれないし、本当にそこまで背景を限定することができるのだろうかとどきどきする。だが、この本の話は最後に、ノアの酔態を隠すことについての検討によって、カナンの男根崇拝に背を向けるものという読み解き方を提唱する。いや、そのように読み解き方がふんだんに盛り込まれているのが楽しい。
 創世記の初めの部分に興味をもたれた方、創世記についてのトリックをわくわくする推理ゲームのように考えている方に良い知らせ。この聖書の細かな解読を共にすることにより、聖書の表面上に現れてこない意味が、しだいに露わになってくるのである。
 天地創造についても、善悪の木についても、程よく相応しく解説されている。この世を神さまが創られたとする見解は、科学的に退けられてしまっていると言ってよい状況にある。しかし、聖書が伝えようとした人間関係の正常化は、問題として切実である。
 現状の常識に疑いをもち、正しく検討することによって、新しい次の世界が広がってくる。
 図版も多く歴史の教科書として調ったものとなっている。




Takapan
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