本

『聖書入門』

ホンとの本

『聖書入門』
山形孝夫監修
ナツメ社
\1522
2004.12

 世に「聖書入門」と掲げる本は数多くある。この本は、「読むほどに知恵が深まる人生の指南書」という触書で、聖書を「人生の書」として勧めるという形をとっているように見える。
 世界の文化の中でのキリスト教としても受けとることができるように、図版を多く取り入れ、また、ふりがなも適宜入れるものとして、小中学生にも読みやすく配慮されている。その点では、優れたサービスに溢れた入門書であると言うことができるだろう。
 いや、たしかにサービス精神に満ちあふれた、キリスト教入門であることには違いない。
 しかし、それはキリスト教のため――ではないように思えてならない。「聖書」というものをなんとか読みやすくするための知恵や配慮であるにしても、信仰を育てるためではないと言って構わない。つまりこの本は、書物としての「聖書」を身近にすることは目指しても、そこから信仰を得るように働きかける意図は、まるでないと感じざるをえないのである。
 というのは、奇蹟や復活は歴史的事実として信用できないという書き方をしている姿勢が、あらゆる記述の中で貫かれているからである。
 山形孝夫教授の監修であるゆえに、その立場が前面に出てきていると見なされる。他の新書などの分野でも、聖書への誘いが著されているのであるが、かなり断言的に、奇蹟はないとか心の問題に過ぎないとか記されているのを見ると、何もそんなことをわざわざ書く必要などないに違いないのに、どうして露骨に書かなければ気が済まないのだろうと悲しい気持ちで接してしまう。
 ほんとうに聖書入門であるとすれば、そこに記述されていることに対して、それは事実ではないとか復活は疑わしいとか、書く必要は何もない。聖書はそうしたことは述べてもいないし、類推させてもいない。たんに著者の見解を押しつけるような形になっている。
 その意味で、タイトルはどうにも相応しくないように思えてならない。
 せっかく、随所で分かりやすいよい説明が施されていながらも、お勧めできる本ではなくなっているので、残念である。




Takapan
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