本

『聖書でわかる英語表現』

ホンとの本

『聖書でわかる英語表現』
石黒マリーローズ
岩波新書906
\777
2004.8

 レバノンに生まれ、日本人と結婚した著者は、大阪で教鞭をとり、キリスト教文化を日本に紹介する仕事に指名を覚えている。すでに軽快な著書が何冊もあるが、私がじっくり読んだのは今回が初めてである。
 たとえば英字新聞を見たときに目に映る表現の中で、聖書に由来するもの、つまり聖書に対する知識がないと言いたいことやその含蓄が見えてこないという表現を集めて、それを系統的に紹介している本である。
 謙虚に、キリスト教にはこういう考えがある、雑誌の見出しのこの言葉はこういう意味です、と語り続けるばかりである。信仰を勧めたり、強要したりする気配は微塵もない。もちろん著者はクリスチャンであり、内に秘めた願いは、読者に聖書を紐解いてもらい、信じる者となることであることに間違いはない。しかし、それが表に出ないだけに、日本人には逆に手に取りやすいと思われることまでよくご存知である。
 皮肉なことに、日本文化を真に理解しているのは、こうした元来「外から」と称してよいような眼差しなのだろうか。
 2000年前後の記事をストックしてまとめてあるので、話題がクリントン大統領であったり、その時期のニュースや出来事に集中しているが、時事性云々を抜きにして十分楽しむことができる。
 さらには、聖書本文も英語で度々引用されており、読者の目には聖書の言葉がいやでも飛び込む仕掛けになっている。
 カトリックの話題も豊富で、プロテスタント信仰に立つ私は、勉強になる。聖書を少しばかり読んでいるからと言って、この本にあることが分かり切っているわけではないのである。英語力の問題もあるし。
 それにしても、英語による表現は、なんと簡潔な場合があることか。同じ意味と思われる場合でも、時に漢語に変えあるいはカタカナ語に変えることで、多彩な変化を繰り出す日本語であるが、英語ではそれぞれの概念が日常語で賄われることが多い。著者は哲学を修めているが、哲学が日本で敬遠されるのも、言語的な理由が大きいのではないか、という気もしてくる。




Takapan
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